研究課題/領域番号 |
19H01994
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
西 真之 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (10584120)
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研究分担者 |
土屋 旬 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (00527608)
桑山 靖弘 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (00554015)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地球・惑星内部構造 / 含水鉱物 / マントル |
研究実績の概要 |
水は地表だけでなく惑星の内部構造やその進化に多大な影響を及ぼしていると考えられる。近年、下部マントルの温度圧力条件下において熱力学的に安定な含水鉱物が複数見つかり、これらがマントル最深部へ水を供給する可能性が示された。本研究では、マントルー中心核境界に運ばれた水の挙動を明らかにすることを目的として、含水鉱物と中心核構成物質である金属鉄との化学反応で起こる現象を、高温高圧実験に基づきの解明する。 当該年度ではマルチアンビル装置を用い、下部マントル上部に相当する25万気圧―50万気圧の圧力下で含水鉱物(δ-AlOOH、アンチゴライト)と金属鉄の反応実験を行った。含水鉱物と鉄の間には金マーカーを設置し、回収試料の金の位置から反応帯成長を律速する移動元素を特定した。また、反応帯成長速度および、その温度依存性を決定した。この結果を核―マントルの温度圧力条件に外挿計算し、水と鉄の相互作用はキロメートル規模におよぶと推定された。さらに、より現実的な多成分試料を用いた実験でも、予備的結果ながら鉄に富む反応帯の生成が確認されている。 初年度から継続しているレーザー加熱式ダイヤモンドアインビルセルと放射光X線を用いてた実験では、120万気圧の水と鉄の化学反応を時分割X線回折測定した。得られたデータから、水と鉄の反応に伴う酸化鉄層の出現を確認した。 本研究結果はGeophysical Research Letters 誌に公表し、論文の解説記事は英国の一般向け科学雑誌「NewScientist誌」に紹介された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、マルチアンビル装置を用いることで、50万気圧までの含水鉱物と金属鉄の反応実験を行った。回収試料の電子顕微鏡観察から反応帯の詳細を分析中である。これまでに、反応帯の幅が温度や圧力によって変化しすることや、反応帯の生成には水素および酸素の拡散現象が必須であることが明らかになりつつある。また、試料容器中に水成分が存在しない場合には、反応帯は生成されないことも確認されている。これらの観察結果は現在論文として執筆中である。上記に加えて、マントルを想定した場合の、より現実的な多成分系組成についての反応実験も開始している。パイロライト組成と金属鉄の反応に伴う酸化鉄に富む反応帯の形成を確認しているが、そのメカニズムの詳細解明にはより多くの実験が必要であると考える。マントル鉱物側に多量の金属鉄が析出する現象は実験前には想定してこなかったことであり、追加実験による再現性の確認と、そのメカニズムの考察が必要である。 レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた鉄と水の反応実験については、水と鉄の反応に伴う酸化鉄の形成を観察した。本内容は論文として公表し、「地球中心核へ運ばれた水の挙動 -中心核の表面のさび-」というタイトルでプレスリリースを行った。マルチアンビル実験結果と統合して考えると、核とマントル境界付近に酸化鉄に富む層が形成されていることが想像される。この現象が地震観測結果と整合的であるかについて、より詳しく考察する必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのマルチアンビル装置とレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験により、金属鉄―含水鉱物間の反応帯形成成長速度の温度圧力依存性が理解されつつある。しかしながら、多成分系の地球マントルで上記データを用いた外挿計算が成立するかについては、さらに多くの実験による検証が必要である。特に、2021年度では、多成分系試料と金属鉄の反応実験から、より現実的な化学組成下における地球マントルと中心核の反応について考察する。 2020年度に行った関連実験では、多成分試料であるカンラン岩組成と金属鉄の反応実験結果から、カンラン岩に金属鉄が出現することが観察された。これについては(1)金属鉄のカンラン岩への浸透、もしくは(2)主要構成鉱物であるブリッジマナイト中の金属鉄の価数が変化したことによる金属鉄の析出、が考えられるが、現在のデータからははっきりしたことが言えない。この現象が核マントル境界で起こるとすれば、この領域の地震観測結果にも影響する。そこで、2021年度では、温度圧力条件を変えた追加実験と、回収試料の電子顕微鏡観察により、金属鉄出現のメカニズムを解明する。また、これらの反応生成物が地震学伝播速度にどのような影響を与えるかをモデル計算し、地球深部の地震学的観測結果と比較する。これまでの研究結果と合わせて、最大目標である地球惑星内部の水循環モデルを構築し、研究成果は国内外の学会や論文としての公表を目指す。
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