研究実績の概要 |
S-netで記録された走時データを用いて2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)震源域の3次元速度構造を調べた結果,この大地震の破壊は,深い側の硬い岩石と浅い側の柔らかい岩石との構造境界から開始したことがわかった.浅い側の比較的に柔らかい岩石は太平洋プレートが沈み込む日本海溝にまで続いており,このような柔らかい岩石では破壊を止めることができず,海溝近傍まで大きなすべりが及び,大津波が発生したと思われる(Hua & Zhao et al.2020,Nature Communications 11,1163). 基盤観測網で記録された近地地震の波形データを用いて2018年胆振東部地震(M6.7)震源域の3次元P波とS波減衰構造を推定した結果,この地震が東北日本弧と千島弧の衝突で起こり,またその発生が沈み込んでいる太平洋スラブ脱水の影響を受けたことが分かった.同じタイプの大地震が北海道南部地域で今後また起こりうると思われる (Hua & Zhao et al.2019,Scientific Reports 9,13914). 大量の近地地震走時データを用いて2018年Anchorage地震(Mw7.1)と1964年アラスカ巨大地震(Mw9.2)震源域の3次元P波とS波速度構造及びポアソン比分布を推定した結果,以下のことがわかった.(1) 2018年Anchorage地震が太平洋スラブの中で起こった正断層型の地震で,震源域に顕著な低速度・高ポアソン比の異常体が存在する;(2) 1964年アラスカ巨大地震の震源がスラブ境界面上おける構造の急変部に位置し,その上の北米プレートに高ポアソン比異常体が存在する;(3)スラブの脱水と震源域の構造不均質がこれらの大地震の発生に影響を及ぼした(Gou & Zhao et al.2020,Geochem.Geophys.Geosyst.21).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)震源域の3次元速度構造について重要な結果を求めた.また,この結果を論文にまとめ,2020年3月に著名な国際科学雑誌であるNature Communicationsに発表した.
2. 被害地震である2018年北海道胆振東部地震(M6.7)震源域における高分解能の3次元P波とS波減衰構造を推定し,その結果をまとめた論文を著名な国際科学雑誌であるScientific Reportsに発表した.
3. 当初予期していなかったAnchorage大地震(Mw7.1)が2018年11月30日に起こった. 早速この大地震の発生機構と震源域の詳細な3次元速度構造を調べた. また1964年アラスカ巨大地震(Mw9.2)震源域の3次元微細速度構造を世界で初めて推定した. これらの結果に関する論文をアメリカ地球物理学連合の著名な国際専門誌であるGeochemistry Geophysics Geosystemsに発表した.
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今後の研究の推進方策 |
1.Hi-netとS-net地震観測網で記録された大量の近地地震と遠地地震の走時データの収集と処理を行い, 日本列島下の深さ700kmまでの詳細な3次元P波速度構造を調べる予定である. 特にこれまでまだ分かっていない沈み込んでいるスラブ下のマントル不均質構造とそのスラブ内地震とプレート境界型大地震への影響についてを調べる.
2.台湾の東海岸にある花蓮県で起こった2018年被害地震(Mw 6.4)と2019年被害地震(Mw 6.1)の震源域における微細な3次元P波・S波速度構造とポアソン比分布を求め, これらの大地震の発生機構を調べる予定である. この研究結果は日本の地殻大地震の発生メカニズムの解明に役に立つと思われる.
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