研究課題/領域番号 |
19H01999
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平島 崇男 京都大学, 理学研究科, 教授 (90181156)
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研究分担者 |
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
吉田 健太 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 研究員 (80759910)
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
苗村 康輔 岩手大学, 教育学部, 准教授 (50725299)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 深部流体 / 沈み込み帯 / 温泉水 / 黒瀬川帯 / 八重山変成帯 / 三波川変成帯 / N同位体 / CO2ガス |
研究実績の概要 |
本研究では、流体組織解析班と流体包有物研究班を組織し、冷たい沈み込み帯での深部流体活動の実態や移動経路の推定を試みること目指している。 流体組織解析班は、酸化還元状態がスラブの脱水・吸水反応に及ぼす影響について、冷たい沈み込み帯の地下15-100km/200-650℃で形成された多様な化学組成を持つ変成岩を用いて、沈み込み帯での吸水・脱水反応が生じる深度とその量を評価することを第一の目的とした。 当該年度には、流体組織解析班は、黒瀬川帯のMn/Fe-rich変成チャート中の含水鉱物の生成消滅過程を解析する過程で希少鉱物であるMnに富むパンペリー石を見出した。さらに当該鉱物の安定関係を解析したところ,Mnに富むパンペリー石+ローソン石の組み合わせは新たな高圧指標鉱物であり、かつ、マントル深度への水の運び手となることを提案した(薮田・平島)。また、石垣島の八重山変成岩中の鉱物脈を用いた流体活動が生じた温度圧力条件の解析(吉川他),三波川帯五良津岩体はBに富む流体活動を被ったこと(吉田他), 神居古潭変成帯では、鉱物脈採取のための追加の野外調査を実施するとともに、これまでに見出していたCO2に富む鉱物脈中で結晶成長したアルカリ輝石の結晶構造解析を実施した。併せて、チェコ(Muriuki他), モンゴル(苗村他), 中国(老川他),キルギス(Kasymbekov他)の高圧変成岩類に対して、それらの形成史の解析を実施した。 流体包有物研究班は、九州各地において、CO2ガスをともなって湧出する温泉水のガス成分の各種同位体分析を行うことで、CO2が地殻起源であるかマントル起源であるかを識別できることを示した。また、分析時間を大幅に短縮させたNH4イオンの窒素安定同位体比(δ15N)の測定手法を高塩分の温泉水に対して適用させ,精度に問題のない分析結果が得られる研究環境を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒瀬川帯八代地域のMn/Fe-rich変成チャート中からMn3+に富むパンペリー石を見出した。そのような酸化状態では鉄は全てFe3+となる。その一方で、当該地域の変成チャートから、Fe2+とMn2+を含む含水鉱物(低酸化状態)~Mn4+を含む含水鉱物(超高酸化状態)まで、非常に幅広い酸化状態で生じた含水鉱物を見出した。これらの素材は、沈み込み帯の脱水・吸水過程に酸化状態が及ぼす影響を検討する際の最適の資料であることを確信した。 暖かい沈込み帯で形成された三波川変成帯に比べて、神居古潭変成帯幌加内地域では深部流体活動の痕跡である鉱物脈の存在が圧倒的に少ないことが確かめた。しかし、これまでの野外調査で採集した鉱物脈の研究により、変成作用の最盛期に活動した流体はSiO2に富んみ、その後、CO2主体の流体活動に移行したことが推定された。 西部九州の変成岩地帯に湧出する炭酸泉に付随するガスのCO2のδ13C分析、3He/4He・4He/20Ne測定ならびにCH4のδ13C分析を行い、CO2が地殻起源炭質物の熱分解生成物であることを明らかにした。これにより、同様な湧出形態・化学的特徴の温泉に対して同様の調査と分析を行うことによって温泉付随CO2ガスの由来が地殻かマントルかを識別できることを実証した。また、非火山地域である大分平野に分布する高塩分温泉を採取して,水のδD・δ18O分析およびNH4イオンのδ15N分析を実施した。その結果、δD・δ18Oの値に異常が認められ深部由来であることが推定された温泉水に含まれるNH4イオンのδ15N値は天水に由来する温泉水のδ15Nに比べて有意に低い値を示すことが明らかとなり、地下深部における窒素の挙動に関する情報を温泉の化学・同位体組成より得られる可能性のあることが示された。 上記の成果を勘案して、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
流体組織解析班では、黒瀬川帯八代地域のMn/Fe-rich変成チャート中の鉱物組み合わせについて、酸化状態の違いがMn/Fe-rich変成チャート中の含水鉱物の鉱物共生に及ぼす影響を解明するための研究を継続することにした。神居古潭帯幌加内地域の青色片岩地帯の野外調査によって見出した鉱物脈について、次年度以降は、「変成作用の最盛期に活動した流体はSiO2に富んみ、その後、CO2主体の流体活動に移行したとの推定」を確認するための追加研究と、鉱物脈中の流体包有物の同定やクラッシュリーチング法などの手法などを駆使して、流体包有物の微量元素組成の分析に着手することにした。また、神居古潭変成岩で見出したCO2に富む鉱物脈中で生成したアルカリ輝石の結晶構造解析を実施した結果、安定相が示す空間群とは異なる結晶構造を見出した。今後は、その原因についての考察を行い、まとまり次第、順次、学会発表と論文化を進める。 流体包有物研究班は、令和2年度の成果として,深部由来の熱水に含まれる窒素同位体比が浅い地下水におけるδ15N値と異なっていることが確認されたものの,測定精度を超える変動が空間的に見られていることから、これらの要因を把握するために既往研究で熱水の起源が特定されている幾つかの地域の高塩分温泉を採水し,今回整備したNH4イオンのδ15N測定法によるデータ取得を進め、トレーサーとしての精度を検証する。同時に,温泉水に付随するガスの各種同位体分析も行い、それらの起源についても明らかにすることで深部熱水の水質形成機構を構築し,窒素同位体が深部流体の新たなトレーサーになり得るものであるかの検討を加える。また、大分平野で測定された「深部起源流体に含まれるNH4イオンのδ15N」については国内外を通してもその研究事例が少ないことから、研究期間内での学会発表および論文公表を予定している。
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