研究課題/領域番号 |
19H02001
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大橋 聖和 山口大学, 大学院創成科学研究科, 講師 (70615525)
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研究分担者 |
長谷部 徳子 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (60272944)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 活断層 / 光刺激ルミネッセンス / 摩擦発熱 / 地震性断層すべり / 高速摩擦実験 / 断層ガウジ |
研究実績の概要 |
2019年度に実施を計画していた研究は、以下の2つにまとめられる。 (A)断層における石英の光刺激ルミネッセンス(OSL)に影響を与える因子(すべり速度、垂直応力、鉱物種、間隙水の有無など)の一つ一つに対して、その影響を調べるための摩擦実験を実施し、各因子の影響度を定量的に明らかにする、(B)過去に地震性のすべりを被った断層の露頭から試料を採取し、OSL信号を測定することで、地表レベルにおける信号リセットの可否を調べる、である。 実施計画のうち(A)に関し、本年度は、(A-1)既存の摩擦実験とOSL信号測定結果の再解析と取りまとめ、(A-2)天然および模擬の断層物質を用いた高速摩擦実験と断層内温度の測定・計算を行った。(A-1)は、2019年度以前に行った摩擦実験の力学データと実験回収試料のOSL測定データを、新たな知見と手法に基づいて解析し直し、石英OSLに対するすべり速度と垂直応力の影響を検討したものである。(A-2)は、粘土鉱物を含む複数の断層試料に対して高速摩擦実験を行い、垂直応力、含まれる粘土鉱物、および間隙水の有無が断層の力学と発熱にどのような影響を与えるのかを評価したものである。なお、(B)に関しては、本年度は準備のみで終了した。 本年度の研究成果として、高速摩擦に伴う石英OSLのリセット条件を、単位面積あたりの摩擦仕事率、垂直応力(=深さ)、および断層内部の到達温度を定量的な指標として求めることが出来た。また、その結果をまとめ、国際誌に投稿した。天然および模擬の断層物質を用いた摩擦実験では、実験時の垂直応力、含まれる粘土鉱物の量、および間隙水の有無が摩擦発熱の程度に大きな影響を与えることが明らかとなった。特に粘土鉱物の量が多く、水に飽和した断層では、摩擦発熱が著しく抑制され、垂直応力10MPaを超える深部条件でもOSLのリセット条件に達しない可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の2019年度研究実績のうち、(A)断層内物質のOSLに影響を与える因子の個別評価、に関しては、おおむね順調~当初の計画以上に進展した。(A-1)は、投稿原稿の準備と修正に若干の時間を要しているが、おおむね当初の予定通りである。(A-2)に関しては、使用した断層試料のOSL発光量が基準を満たさず、当初予定していた実験後試料のOSL信号測定は実施できなかった。その一方で、実験時の断層内温度の実測と数値計算に基づく予測を数多く実施することができ、実験時の垂直応力、含まれる粘土鉱物の量、および間隙水の有無が摩擦発熱に与える影響を丹念に調べることが出来た。したがって、(A-2)に関しては当初の計画以上に進展したと評価している。 (B)地震性のすべりを起こした断層のOSL測定、に関しては、(A)の実施を優先したことにより、実施する断層の選定、断層内物質の評価と手法の確定で終了した。これに関しては当初予定よりもやや遅れているが、2020年度には速やかに開始できる準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の実施内容と大まかなスケジュールは基本的には当初計画どおりであるが、以下の2点において、研究計画調書に記載したロードマップからの小修正を予定している。(1)高速摩擦実験に基づくOSLのリセット条件決定を、当初予定より1年延長させ、2020年度も継続する。この理由は、2019年度の再解析によって、これまで摩擦実験に用いてきた花崗岩起源の石英ではなく、良質な発光特性を有する堆積物起源の石英を用いて実験を行う必要性が生じたためである。2020年度は、対象とする出発物質を変えて実験を継続することで、従来よりも高い精度でOSL信号の地震時リセット条件を求めることを目指す。(2)2022年度に予定していた天然の地震断層における実践的検証を、2020年から開始に前倒しする。この理由は、本研究課題の後半で実施予定としているボーリング調査を実施する前に、地表レベルでのリセットの有無とボーリング調査地点周囲の岩盤においてOSL年代測定が可能か否か、の2点を前もって知っておく必要があるからである。
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