研究課題/領域番号 |
19H02006
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
廣瀬 丈洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), グループリーダー (40470124)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地震 / 断層 / 南海トラフ / 地下生命圏 / 酸化還元反応 / X線吸収微細構造分析 |
研究実績の概要 |
地震時には地下深部で膨大なエネルギーが放出される。その大部分は熱となり、断層帯内部での岩石と水の物理化学反応を促進する。本研究では、『この地震時の物理化学反応を生命活動に利用する化学合成微生物が、南海トラフ沈み込み帯の地下生命圏を形成している』という仮説を、地震断層運動を再現する摩擦実験によって検証する。特に、断層摩擦発熱によって南海プレート境界物質の酸化還元反応状態がどの程度変化するのかを、X線吸収微細構造分析(放射光XAFS分析)を用いて詳細に調べる。本研究の実験・分析結果と実際の地震観測データを組み合わせると、南海トラフで生命が利用可能な地震化学反応エネルギー量の時空間分布を描くことが可能となり、その知見は沈み込み帯での地震活動-物質循環-生命プロセスの総合的な理解に繋がると期待される。 令和2年度は、室戸沖南海プレート境界から採取された断層岩を用いて地震時の動的高速すべりを再現する低~高速摩擦剪断実験をおこなった。また、その回収試料の微細構造を光学顕微鏡とFE-SEMを用いて観察するとともに、放射光施設SPring-8で試料中のFeとSのXAFS分析(点分析および面分析)をおこなった。予察的な結果として、地震断層すべり時の動的剪断エネルギーが大きくなるにつれて、全鉄に対する3価の鉄の割合が約4%減少(還元反応)することが、XAFS面分析とその解析からわかった。一方、硫黄に関しては、動的剪断エネルギーの増加とともに、全硫黄に対する6価の硫黄の割合が約30%増加(酸化反応)することが、XAFS点分析の結果から推測された。この結果は、同じ断層帯の中でも鉱物によって地震時の動的酸化還元状態の変化が異なることを示しており、その要因について今後解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、昨年度に続き室戸沖南海トラフのプレート境界断層物質を用いて、地震時の動的高速すべりを再現する低~高速摩擦剪断実験をおこなった。コロナ感染拡大の影響で、実験に必要な資材の入手と試験機の調整が遅れたため、実験の再現性を確認するまでには至っていないが、概ね予定通りに研究を進めることができた。 地震時の高速すべりは、すべり速度1.0m/s、垂直応力30MPa、間隙水圧25MPa(有効垂直応力5MPa)の条件下で、断層を2.6~18mをすべらせることによって再現した。実験の結果、すべり開始直後に摩擦係数は約0.23まで上昇したのち、数十度の温度上昇とともに0.08~0.12まですべり軟化することがわかった。実験後、回収試料は薄片に加工して走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察をおこない、天然の地震断層帯の組織をうまく再現できていることを確認するとともに、XAFS分析をおこなう分析領域を決定した。 SEMの観察後、SPring-8で試料中のFeとSのXAFS分析(点分析および面分析)をおこなった。予察的な結果として、地震断層すべり時の動的剪断エネルギーが大きくなるにつれて、断層物質に含まれる粘土鉱物の結晶中の鉄は還元される傾向があること、一方、硫化鉱物中の硫黄は酸化することが明らかとなってきた。今後、酸化還元反応のプロセスを明らかにするとともに、剪断エネルギーと酸化還元反応との相関関係を数式化していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、令和元~2年度に確立したXAFS分析の解析手法を室戸沖プレート境界試料に適応し、南海プレート境界試料の地震性剪断運動前後における鉄と硫黄の酸化還元反応状態変化を明らかにする。特に、断層岩中の構成鉱物とその量比を考慮しながら、地震断層運動時に起こりうる化学反応を考察する。また、酸化還元状態の変化量と剪断エネルギーとの相関関係を数式化することを試みる。 XAFS分析の解析結果次第では、地震性剪断実験の実験条件および実験試料を再度見直す必要が出てくることが予想される。その場合に備えて、実験資材と試料の準備を行なうとともに、必要であれば追加実験試料のXAFS分析をおこなうために放射光の利用申請をおこなう。
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