研究課題
地震時には地下深部で膨大なエネルギーが放出される。その大部分は熱となり、断層帯内部での岩石と水の物理化学反応を促進する。本研究では、『この地震時の物理化学反応を生命活動に利用する化学合成微生物が、南海トラフ沈み込み帯の地下生命圏を形成している』という仮説を、地震断層運動を再現する摩擦実験によって検証する。特に、断層摩擦発熱によって南海プレート境界物質の酸化還元反応状態がどの程度変化するのかを、X線吸収微細構造分析(放射光XAFS分析)を用いて詳細に調べる。本研究の実験・分析結果と実際の地震観測データを組み合わせると、南海トラフで生命が利用可能な地震化学反応エネルギー量の時空間分布を描くことが可能となり、その知見は沈み込み帯での地震活動-物質循環-生命プロセスの総合的な理解に繋がると期待される。令和3年度は、室戸沖南海プレート境界から採取された断層岩および橄欖石を用いて地震時の動的高速すべりを再現する低~高速摩擦剪断実験を完了させた。また、その回収試料の微細構造を光学顕微鏡とFE-SEMを用いて観察するとともに、放射光施設SPring-8で試料中のFeとSの追加の補足XAFS分析をおこなった。実験およびXAFS分析の結果、地震断層すべり時の動的剪断エネルギーが大きくなるにつれて全鉄に対する2価の鉄の割合が、断層岩では3%ほど増加する(還元反応)のに対して橄欖石の場合は9%程度減少する(酸化反応)ことがわかった。また、橄欖石の動的酸化反応の進行と剪断エネルギーの相関関係はシグモイド関数で表現できることを確認した。最終年度は、地震時の数秒の動的剪断運動によって断層内部物質の酸化還元反応が起こる要因を探るとともに、これまでの成果をまとめて論文として公表することを目指す。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度は、本研究の実験条件を決定する上で必要不可欠であった室戸沖南海トラフのプレート境界断層近傍の水圧状態を再解析して、その結果を論文としてまとめて国際誌に公表した。また、昨年度に続き室戸沖南海トラフのプレート境界断層物質および橄欖石を用いて、地震時の動的高速すべりを再現する低~高速摩擦剪断実験をおこない、実験の再現性を確認した。実験およびXAFS分析の結果、地震断層すべり時の動的剪断エネルギーが大きくなるにつれて全鉄に対する2価の鉄の割合が、断層岩では3%ほど増加する(還元反応)のに対して橄欖石の場合は9%程度減少する(酸化反応)ことがわかった。また、橄欖石の動的酸化反応の進行と剪断エネルギーの相関関係はシグモイド関数で表現できることを確認した。3年間の研究で、地震時の数秒の動的剪断運動によって断層内部物質の酸化還元反応が進行すること、そしてその反応状態変化をXAFS分析によって定量的に解析する道筋を確立ことができた。また、断層内部物質の動的酸化還元反応は、剪断破壊による反応性の高い界面を持つナノスケール粒子の形成と、摩擦発熱によって水が超臨界状態に変化に起因する可能性を考察した。最終年度は、この要因をさらに探るとともに、これまでの成果をまとめて論文として公表することを目指す。
令和4年度(最終年度)は、これまでのXAFS分析結果を分析エラーも含めて再解析を行い、その再解析結果をもちいて酸化還元状態の変化量と剪断エネルギーとの相関関係を確立することを目指す。そして、南海トラフでの地震観測データと組み合わせることで、南海トラフで生命が利用可能な地震化学反応エネルギー量の時空間分布を描くことを試みる。また、地震時の数秒の動的剪断運動によって断層内部物質の酸化還元反応が起こる要因をさらに検討し、その検討内容も含めてこれまでの一連の成果を論文として公表する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
月刊地球
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