研究課題/領域番号 |
19H02009
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川野 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40378550)
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研究分担者 |
鈴木 道生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10647655)
豊福 高志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭技術開発プログラム), 主任研究員 (30371719)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バイオミネラリゼーション / 可視化 / 炭酸カルシウム / 非晶質相 |
研究実績の概要 |
本研究は、炭酸カルシウムなどの生体硬組織の形成過程に関して近年注目されている、非晶質相を経由した鉱物形成メカニズムを明らかにすることを目的としている。そのために、生体内を模したゲル状物質内で炭酸カルシウムの合成実験を行い、①蛍光プローブを用いてゲル内における炭酸カルシウム形成環境のpHおよびイオン濃度を可視化するとともに、②計算機シミュレーションを用いて有機物とイオンの相互作用を定量化することを計画し、従来vital effectとして現象論的に捉えられてきた生体鉱物形成プロセスを物理化学的に理解することを目指した。 これまでの研究において、水溶液環境において溶解する炭酸カルシウム結晶周囲のpHおよびカルシウムイオン濃度の変化を同時に可視化する手法を確立してきた。2020年度は、ゲル状物質内における炭酸カルシウムの合成実験におけるpH変化を、蛍光プローブを用いて定量的に可視化することを目指して検討を行ったところ、水溶液環境における実験とは明確に差異が認められたため、実験条件により蛍光強度がどのように異なるかを整理し、新たにキャリブレーション曲線を作成した。これにより、ゲル状物質内のpHを定量化するとともに、実験範囲のゲル全体をタイムラプス撮影することにより、ゲル状物質の両側からCaイオンとHCO3-イオンが拡散して炭酸カルシウムが形成する過程におけるpH変化の全貌を捉えることに成功した。その結果、場所によるpH変化の傾向の違いが、形成する多形や形態の違いに影響を及ぼしていることが示唆された。2021年度、さらに共焦点顕微鏡を用いて結晶周囲の局所的な可視化を行うとともに、カルシウムイオン濃度の定量化を行い、シミュレーション結果とあわせて検討することで、より詳細なメカニズムを明らかにすることができると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、生体内を模した環境下における非晶質炭酸カルシウムの形成過程および非晶質相から結晶相への相転移メカニズムを解明することを目的としており、そのために結晶形成/溶解環境のpHおよびイオン濃度の可視化を行ってきた。現在まで、①水溶液環境中において溶解する結晶周囲のpHおよびイオン濃度変化の定量的な同時可視化、②ゲル状物質内において炭酸カルシウム形成が起こる過程におけるpHの定量的な可視化およびカルシウム濃度の定性的な可視化に成功している。 2020年度に予定していた、北海道大学オープンファシリティに設置されている共焦点レーザー顕微鏡を用いた成長/溶解する結晶周囲の局所的な観察については、コロナ禍の影響もあって実現できなかったが、そのかわり研究室内において、ゲル状物質内での炭酸カルシウムの形成実験における全体のpH変化を定量的に可視化することに成功し、新たな知見を得ることができた。この成果は、生体内を模した環境の合成実験として注目されてきたゲル内における結晶形成の環境を、実際に明らかにものとして重要であるばかりでなく、固相の形成・溶解時におけるpHなどの環境を純粋な水溶液以外でも可視化できることを示した結果として、材料分野から引き続き注目を集めている。実際に、2020年度も新たに異なる分野からの共同研究の申し出を受けて研究をスタートさせており、これらのことからも、十分な進展であると考えてよい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、生体内を模した環境下における炭酸カルシウムの形成メカニズムを解明するための大きな柱のひとつとして、結晶形成/溶解環境のpHおよびイオン濃度の可視化を行ってきた。2021年度においては、これまでに達成できていない①ゲル状物質内における炭酸カルシウムの形成過程における、カルシウムイオン濃度の定量的な可視化、および②共焦点顕微鏡を用いた形成する結晶周囲の局所的なpH変化の可視化を行う。①カルシウム濃度イオン変化については、水溶液環境においては定量的かつpHと同時に可視化することに成功する一方、ゲル状物質内においては定性的な可視化を行ってきたが、両者は溶液の量などの実験条件が異なるため、異なる蛍光プローブを選定する必要がある。②形成する結晶周囲の局所観察については、通常の蛍光顕微鏡では実験セルの厚み分の蛍光を積算しており、結晶周辺の微細な情報を正確に捉えられていない可能性があるため、共焦点レーザー顕微鏡の利用を計画している。当初、2020年度に北海道大学オープンファシリティに設置されたものを利用する計画であったが、当該年度には研究室内での実験を優先して行ったため、2021年度に行う予定である。予備実験の結果から、2021年すぐに実現できると期待しており、これらの結果は形成メカニズムを考える上で重要な情報となる。 さらに引き続き、計算機シミュレーションにより、非晶質相形成初期のイオンプロセスの検討を行う。2020年度までに、GPUを用いた分子シミュレーションを行える環境を整えており、2021年度には、それを用いた大規模計算を行うことにより、水および他の溶媒分子とカルシウムイオン/炭酸カルシウムナノ粒子との相互作用を推定し、固相形成初期に実現可能なプロセスを明らかにする。
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