研究課題/領域番号 |
19H02011
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長谷川 卓 金沢大学, 地球社会基盤学系, 教授 (50272943)
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研究分担者 |
中村 英人 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任講師 (00785123)
黒田 潤一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (10435836)
守屋 和佳 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60447662)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炭素同位体比 / ノルマルアルカン / 白亜紀 / IODP |
研究実績の概要 |
IODP Exp. 369(国際深海科学掘削計画・第369次航海)で採取された海底ボーリング試料から,19年7月に追加サンプルを高知大学コアセンターで採取した.最も注目している海洋無酸素事変2の層準を中心として植物由来と考えられる長鎖ノルマルアルカンの分布を確かめたところ,通常の陸上高等植物には見られない分布(炭素数41のノルマルアルカンが最大を取る)が確認された.C41ノルマルアルカンの起源を知るため炭素同位体比を分析したところ,C4植物とは全く反する結果となった(C4植物であれば,C3植物に由来するその他の分子と比較して約10‰程度高い値-18‰程度となるはずだが,同分子は-35‰付近の値であった.これはプランクトン類よりも低い).C41ノルマルアルカンの起源については,今後も引き続き検討していく.C4植物に相当する高い炭素同位体比(-10から-20‰程度)の分子は,U1516の試料からは全く検出できなかった.しかし白亜系試料としては世界で初めて,3不飽和のアルケノンを検出した.C40の2不飽和のアルケノンも検出されているが,これは一部の試料では抽出有機物の中で最も豊富な分子であった.これらの分子は海洋環境の重要なバイオマーカーであることから,C40アルケノン類を用いた海洋植物プランクトン進化と白亜紀における環境研究にシフトして研究を進めている.C40アルケノンを用いた炭素同位体比層序を構築した.それによれば,U1516は世界のリファレンスセクションとlayer by layrerで対比ができることが分かってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初ターゲットにしていたC4植物由来物質が検出できていない点で,直接の目的達成に困難が生じている.しかし怪我の功名というべきか,白亜系試料から世界で初めて3不飽和アルケノンを検出した.これを用いた古環境推定,2不飽和アルケノンを用いた炭素同位体比層序など,広い意味での南半球高緯度域の白亜紀古環境研究に貢献できる道筋は立てることができている.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きC4植物由来物質の検出を進めていくが,C41ノルマルアルカンのような,C4ではないが特殊な植物由来物質を検出しており,その起源を突き詰めていく.またハプト藻類に由来する3不飽和アルケノンは世界で初めて検出に成功したのであり,これを用いた古水温推定や,炭素同位体比層序を用いた対比,さらに二酸化炭素分圧の評価などにも積極的にチャレンジしていく.これは本課題の直接の目的とは合致しないが,本研究計画の背景にあり,「波及効果」として狙った内容により近いものである.広い意味で「南半球高緯度域の白亜紀古環境」が世界的な炭素循環や気候の変遷に如何に関わったのか,を突き詰めるという意味で本研究の趣旨に合致する.C4植物というターゲットの探索と同時並行でその他の植物由来分子の検討は進めることができる(分析手法が同じ).また今後は論文執筆に注力する.
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