研究課題/領域番号 |
19H02013
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉谷 健一郎 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (20222052)
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研究分担者 |
石田 章純 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 助教 (10633638)
掛川 武 東北大学, 理学研究科, 教授 (60250669)
三村 耕一 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80262848)
大友 陽子 北海道大学, 工学研究院, 特任助教 (80612902)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太古代 / 微化石 / ピルバラクラトン / 酸分解抽出 / レンズ状微化石 / 大型球状微化石 / 隕石衝突の痕跡 |
研究実績の概要 |
本年度は新たに偏光顕微鏡を導入して研究遂行の基盤を整えるとともに、既存試料の酸分解で得られた太古代微化石の回収と分類、予察的分析を行なった。また9月に研究代表者と研究分担者3名の計4名による西オーストラリア・ピルバラクラトンでの調査を行なった。回収した微化石と野外調査とその成果について概要を以下に述べる。 1)回収微化石 技術補佐員を12月から投入し、ファレル珪岩層について2地点から採取した既存試料計100g以上を処理した。酸分解抽出した微化石の総数は推定5000個に及ぶ。またこの回収作業に伴って、数百個のフレキシブルな膜からなる大型球状微化石、ダンベル状、シート状、鎖状等多様な結合様式のレンズ状微化石標本を得ることができ、その一部については永久プレパラートを作成した。大型球状微化石についてはラマン分光分析を行い、コンタミネーションの可能性を排除した。また電子顕微鏡観察によって厚い皮膜、薄い皮膜それぞれで特徴付けられる2タイプがあることが確認できた。 2)野外調査とその成果 野外調査では、微化石産出地点である、ゴールズワージー緑色岩帯のファレル珪岩層、スティルリー・プール層、パノラマ緑色岩帯のスティルリー・プール層の再調査を行った。いずれの地点でも含微化石チャートを複数個採取し、薄片を作成した。その結果抽出作業に供するに十分な微化石を含んでいることがわかった。また既存試料に隕石衝突の痕跡(衝突球体)が認められた層準でも試料採取を行った。その結果、ファレル珪岩層では衝突球体の再発見は叶わなかったが、衝突変成を受けたと考えられるジルコンを大量に含む部位を見出した。またはゴールズワージー緑色岩帯のスティルリー・プール層で衝突球体を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既存試料の分解だけでも推定5000個以上のレンズ状微化石を回収できた点は当初の予定を大きく上回る。それに加えて、これまであまり注意を払ってこなかったフレキシブルな皮膜を有する大型球状微化石を大量回収できた意義は大きい。薄片観察においてフィルム状微化石の1タイプと理解されていたものが、実は球状微化石であったことがはっきりとした。このタイプは南アフリカ32億年前の地層から産出が報告されているが、それ以降では27億年前からしか知られていない。すなわち今回の進展によってその間をつなぐ化石記録が確認されたことになる。また現地調査で採取したチャートに多くの微化石が認められた点も特筆できる。含微化石チャートの層厚は15cm程度であるが、微化石の存在量、保存の程度には場所によるばらつきが大きいからである。 初期太古代はそれ以降よりもはるかに頻繁に小惑星が衝突していたとされる。その証拠になるのが地球に衝突する際に生成される小球体である。申請者はパノラマ緑色岩帯のスティルリー・プール層に衝突球体様粒子を発見したが、それが本当に小惑星衝突起源であれば、広範囲に散らばっているはずである。今回の野外調査でパノラマ緑色岩帯の衝突球体発見地点から200km以上離れたゴールズワージー緑色岩帯でもスティルリー・プール層に衝突球体を発見できた意義は大きい。この地点の衝突球体はパノラマ緑色岩帯のものより大きいため、より衝突センターに近かったことが示唆される。またファレル珪岩層の衝突痕跡は衝突球体様粒子が激しく変質し、化学的特徴からその起源を議論することが難しいため、形状や結晶学的特徴から小惑星衝突起源を論じることができるジルコンの発見の意義は大きい。ファレル珪岩層は約30億年前の地層であり、衝突記録としては初めて年代範囲になる可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続きバイオマーカー抽出に用いるための微化石の回収を進めるとともに、研究分担者により分析プロトコルの確立を急いでもらう。これには抽出に用いる有機溶媒の蒸留・高純度化、汚染有機物の除去方法の開発、抽出用有機溶媒の最適化などが含まれる。また同時にin-situで微化石を構成する有機物を分析する手法の応用可能性を探っていく。これに関しては次年度における新たな研究分担者の追加や海外研究者との協力を視野に入れる。他の研究分担者によって昨年度にin-situ炭素・窒素同位体比データが得られたが、その解析を進め、分析状の問題点(特にボロンの共存による誤差への対処)をクリアーする方法を確立した上で追加データの収集を進める。また透過型電子顕微鏡を用いた微化石の微細構造観察に欠かせない薄膜作成技術の習得についてはある程度の進展がみられた。今年度は数多くの微化石標本の薄膜作成にチャレンジし、技術の高度化を目指すとともに、微化石の実体にせまる微細構造データの獲得を目指す。これら継続課題の一方で、研究代表者により、大型球状微化石について、1)サイズ分布と皮膜の表面形状に基づく分類、2)走査型電子顕微鏡観察で明らかになった内部や表面に存在する繊維状組織、微小球状組織の詳細な観察を行い、論文化を目指す。また酸分解試料に見つかったレンズ状微化石の結合組織(シート状、鎖状など)についても詳しい記載とその分類学的な意義について考察し、論文化を進める。
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