研究課題
西オーストラリア・ピルバラ地塊のファレル珪岩層(約30億年前とされている)の含微化チャートについて薄片作成と微化石の抽出をし、それらにもとづいた形態の多様性と電子顕微鏡観察、および収束ビームを用いた微化石の切断とその断面観察を行った。さらにファレル珪岩チャートからも多産するフレキシブルな有機質膜を有する球状微化石と系統的関連性の可能性がある原生代に多産するアクリターク"Leiosphaeridia"について、中期のものはロシア産のもの、後期のものは中国産採のものを知己の研究者から調達し、顕微ラマン分光分析を行った。指導大学院生の詳細な観察と計測により、コロニーを形成しないレンズ状微化石とコロニーを形成するレンズ状微化石のサイズや形態について新たな知見が得られた。コロニーを形成しないレンズ状微化石には、形態学的に認識されうる二次グループは検出されなかった。一方コロニーグループ内のサブグループとして、鎖集合体、レンズ集合体、回転楕円体集合体、およびレンズ回転楕円体集合体が認識された。これらのサブグループ間あるいはサブグループ内でレンズ状微化石の円形度、レンズ状微化石を特徴付けるフランジの厚さなどに違いが見られ、レンズ状微化石の多様性の一端を明らかにすることができた。またレンズ状微化石については収束イオンビームを用いた薄膜の作成と透過型電子顕微鏡観察を行った。内部は径1μm程度の炭素質の小胞と微粒子の集合体からなっており、小胞の内部は空洞であることがわかった。また隣り合う小胞と微粒子同士が網目状に接着し合っており、これが比較的強固な構造を維持していることが示唆された。原生代Leiosphaeridiaの顕微赤外分光分析の結果から、標本によっては分類を進める上で有効なシグナルが検出できることが明らかとなり、太古代の類似微化石への応用の糸口が得られた。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍が続き、予定していた野外調査が再び行えず、2019年の試料で得られた成果にもとづいて追加調査を行えなかった点は残念であるが、2019年試料およびそれ以前に採取し研究室に保存していた試料を最大限活用し、ある程度の成果を得られたと考えている。本研究の目的は太古代微化石のバイオマーカー 分析にもとづくその代謝、すなわちシアノバクテリア、真核藻類の可能性を検討することであるが、同時にバイオマーカー 分析で決定的なデータが出なかった場合を想定し、セーフティーネットとして同位体分析や、形態分析、そして微細構造分析を組み込んでいる。これらのセーフティーネットにおいてそれなりの成果が得られたということである。この成果に基づいて、バイオマーカー分析に注力できるというベースができたという点で上記のような自己評価となった。
これまでの研究で形態学的なアプローチである程度成果が見込まれることが明らかになったので、今後もそれらを引き続き進める。これまで中心としてきた薄片内標本の形態学的研究に加えて、抽出微化石の形態学的データも精力的に集めて行く。抽出したレンズ状微化石にも様々なコロニー状のものが含まれることがわかっており、正確な計測データの収集によって、薄片標本では詰め切れなかったレンズ状微化石の分類学的多様性について定量的な議論ができるように持って行きたい。また太古代微化石への顕微赤外分光分析の応用(基本的に古細菌/真核生物と真正細菌の区別が可能とされている)も積極的に進めて行く予定である。これらの微化石研究と共に、2019年の試料採取で新たに見つかったファレル珪岩層のケイ酸塩スフェリュールについては予察的な分析から小惑星衝突起源の可能性が高いことが示唆された。構成鉱物の同定、クロム鉄鉱のニッケル濃度の測定などによってその起源を特定する。さらに34億年前のスティルリー・プール層群で良い結果が得られたRe-Os系を用いた年代測定をファレル珪岩層に適用し、その年代特定を試みる。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Precambrian Research
巻: 336 ページ: -