研究課題/領域番号 |
19H02013
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉谷 健一郎 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (20222052)
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研究分担者 |
石田 章純 東北大学, 理学研究科, 助教 (10633638)
掛川 武 東北大学, 理学研究科, 教授 (60250669)
三村 耕一 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80262848)
大友 陽子 北海道大学, 工学研究院, 特任助教 (80612902)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太古代 / 微化石 / バイオマーカー / 形態分析 / 同位体 / 小惑星衝突 |
研究実績の概要 |
西オーストラリア・ピルバラ地塊から採取した太古代チャートからのバイオマーカーの抽出の結果、典型的バイオマーカー は検出できなかった一方で、セルロースの分解産物が検出された。セルロースは真核藻類やシアノバクテリアによって生産されるため重要な知見であるが、分析手順においてろ紙などを使っていたためコンタミネーションの可能性も排除できなかった。抽出微化石の同位体分析については大型球状微化石を中心として行った。薄い膜を有する標本、厚い膜を有する標本について予備的に分析した結果、それぞれ-30パーミル、-50パーミル程度の値を得た。前者についてはこれまで行われた他の形態の微化石と同程度の値であったが、後者のような極めて軽い値は今回初めて得られた。この値はメタン生成菌から得られるものと同程度であり、大型球状微化石の代謝の一端を明らかにする手がかりとなる。抽出微化石の形態データ蓄積は順調にすすんでおり、1000標本はゆうに超えた。レンズ状微化石が3個直列しているもの、フランジを共有してシート状のコロニーになっているもの、枝分かれしているものなど多様で複雑なものを認めることができた。このような複雑なコロニーの抽出は太古代微化石では最初である。一方2019年に採取した試料の観察を進めていく中で、小惑星衝突の際に形成される小球体が34億年前のスティルリー・プール層の含微化石チャートと30億年前のファレル珪岩層から発見することができた。前者については太古代チャートでは初めてRe-Os系の年代測定を適用し、確立された年代値と整合的な値を得ることができた。また本研究課題を遂行するする上で得られた知見も含め、中間総括的な単著”Early Life on Earth: Evolution, Diversification, and Interactions" をCRC-pressから出版することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の中、予定していた野外調査が行えず、2019年の試料で得られた成果にもとづいて追加調査を行えなかった点は残念であるが、2019年試料およびそれ以前に採取し研究室に保存していた試料を最大限活用し、ある程度の成果を得られたと考えている。本研究の目的は太古代微化石のバイオマーカー 分析にもとづくその代謝、すなわちシアノバクテリア、真核藻類の可能性を検討することであるが、同時にバイオマーカー 分析で決定的なデータが出なかった場合を想定したセーフティーネットとして同位体分析や、形態分析、そして微細構造分析を組み込んでいる。前者に関しては典型的バイオマーカーは検出できなかったものの、様々な有機分子が検出でき、より感度良く分析するための条件改良の手がかりも掴めている。後者に関しては着実に進行しており、これまでに報告されていないメタン生成菌的な炭素同位体の検出ができた点は特筆できる。また古生物学、生物学の既往研究の精査により、30億年前のファレル珪岩層の微化石群については酸素発生型光合成細菌を含む可能性が高いことを著書で議論できたことは重要な成果であると考えている。以上のことより本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
バイオマーカー 分析の結果、多くの有機分子とともにセルロースの分解産物が検出された。セルロースは真核藻類やシアノバクテリアによって生産されるため重要な知見であるが、分析手順においてセルロースを含むろ紙などを使っていたためコンタミネーションの可能性も排除できなかった。これらを踏まえた上で、まずろ紙などの直接分析、ろ紙を使わない形での再分析によって、太古代試料から検出されたセルロース分解産物がコンタミネーションなのかどうかをはっきりさせる。その後加温条件や試料量などの分析条件を変えて抽出される有機分子がどのように変わるか詳細に検討するとともにバイオマーカーの検出を再度試みる。さらに検出された有機分子の由来について文献調査や顕生代の生物由来有機物を含むことが確実な試料の分析結果を踏まえて検討する。それらの結果にもとづき、西オーストラリアの他時代の試料の分析、南アフリカの同時代の有機物を多く含むチャートの分析を進め、太古代の有機化学化石の総合的な理解を進める。 同位体分析については大型球状微化石の炭素同位体データを中心に収集し、その代謝の多様性を明らかにし、現生微生物喉の分類群に対応するのかに関する知見を得る。微細構造分析、形態分析については抽出したレンズ状微化石のコロニーに集中し、細胞間シグナルの起源や多細胞性の萌芽について議論していく。
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