研究課題/領域番号 |
19H02015
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
荒木 優希 立命館大学, 理工学部, 助教 (50734480)
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研究分担者 |
古川 善博 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00544107)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 吸着 / 粘土 / RNA / 生命起源 |
研究実績の概要 |
本研究は、原始地球の海水中で起こったと考えられる前生物的RNA形成の過程を原子スケールでその場観察し、界面水が関わる重合メカニズム解明を目的としている。2019年度は、主に粘土基板上での2量体、30量体のヌクレオチドオリゴマーの観察を実施した。ヌクレオチド(糖)の重合反応への触媒効果が確認されている粘土鉱物を基盤として、その表面でヌクレオチドやオリゴマーがどのように観察されるか、周波数変調型原子間力顕微鏡(FM-AFM)でその場観察を行った。規定の重合度(2量体、30量体)で合成したヌクレオチドダイマー、オリゴマーをそれぞれ超純水中に分散させ、その液中で粘土(モンモリロナイト)表面を観察したところ、モンモリロナイト上で2量体を捉えることに成功した。一方、これまでのところ30量体の分散液中ではそれらしき吸着物は観察されていない。先行研究において、DNAなど生体高分子を観察する際にはその吸着を強くするためにマグネシウム(Mg2+)やニッケル(Ni2+)等を含む電解質溶液が用いられている。そのため、現在はマグネシウムを加えた水溶液中での実験を引き続き進めている。並行して、モンモリロナイトより表面電荷密度の大きいマイカ上で同様の観察を実施した。マイカ上では、30量体のオリゴマーの分散液中で球状の塊が凝集して吸着している様子が観察された。DNAを観察する場合にも、溶液中で側鎖同士が結合して頻繁に凝集してしまうため、長いオリゴマーの場合に特有の現象であると考えられる。長鎖の場合には、オリゴマーの濃度をさらに下げ、最適化することが必要である。 2019年度の観察結果からは、マイカの方がモンモリロナイトよりも吸着力が高い傾向が伺える。今後は、マイカ上での観察を中心に、ヌクレオチドオリゴマーの吸着に対する電解質を影響を精査することで方針が定まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は重合反応をその場観察するための実験条件の最適化を中心に行い、概ね当初の計画に沿って進んでいる。まずは、DNAよりも容易に分解してしまうヌクレオチドオリゴマーの観察が現在の実験環境で可能であることを確認することができた。ヌクレオチド重合反応の触媒として用いられているモンモリロナイト上で30量体の吸着が見られなかった点に関しては当初の予想と異なったが、電解質を含む環境下でさらに検証を進め、吸着に対する電解質の重要性について精査する方策が定まった。また、粘土基板の表面電荷密度によってヌクレオチドの吸着に違いが見られたため、粘土種によって重合度や速度に違いが生じる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の前半は、マイカ基板上へのヌクレオチドの吸着を中心に観察を進める。2量体から50量体まで、段階的に重合度を変化させたオリゴマーを準備し、まずは純水中でのマイカ上の吸着量や吸着形態の違いを明らかにする。後半には、吸着に対する電解質の影響を検証する。鉱物表面の水和構造を変化させることを確認済みであるMg2+に加え、ヌクレオチドの重合実験に頻繁に用いられている遷移金属(銅:Cu2+, 亜鉛:Zn2+)を加えた時の吸着量の変化をFM-AFMによる原子スケールその場観察から明らかにする。2020年度に予定しているこれらの実験は、来年度に予定している電解質による水和構造変化とヌクレオチド重合との関係を検証する上で重要なデータとなる。
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