本研究は、A:多段化学進化装置(Multi-HF)の開発、B:アミノ酸原料からタンパク質までの化学進化の解析、C:塩基・糖・リン供給源からのRNAなどの化学進化の解析、D:原始タンパク質と原始RNAの機能解析、E:計算化学による評価の5項目からなる。令和4年度までにAの装置を部分的に確立した。多段化学進化装置を構成するエネルギー照射法として、ナノパルス放電プラズマと超音波照射を用いた。この結果、アミノ酸からタンパク質までの化学進化について、ナノパルス放電プラズマ照射下でジケトピペラジン(DKP)を原料とすると3鎖長から4鎖長のペプチドが生成することを明らかにした。一方、Dについてリボザイムの原始地球環境を模擬した超高圧下での自己開裂機能を解析することに成功した。令和5年度は、プラズマ発生源としての超音波照射下でのペプチド生成反応を行い、酸性条件下では中性よりもペプチドが生成しやすいことを見出したので、反応生成物を分析し、反応条件による影響を検討した。この結果、DKPは放電プラズマによって開環し、これを原料として鎖長の大きなペプチドを生成することが推定された。超音波照射においては生成物を高速液体クロマトグラフィーおよび質量分析によって分析した。この結果、超音波照射においてもDKPの開環が起こる。また鎖長の大きなペプチドとm/zを持つ物質が検出された。一方、RNAの生成反応を解析するために、RNA上の塩基の種類に依存せず、RNAの鎖長によって分離されるHPLC法を開発した。これによって、リボザイムなどの生化学的機能をもつRNAの研究をする際に、電気泳動法でなくとも反応を解析できる。 以上、本研究によって、エネルギーを定常的に照射することによって、ペプチドが持続的に生成するシステムを構成できることを明らかにした。
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