研究課題/領域番号 |
19H02021
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
荒尾 与史彦 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40449335)
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研究分担者 |
久保内 昌敏 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (00186446)
川田 宏之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20177702)
細井 厚志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60424800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グラフェン / ナノコンポジット / 剥離分散 |
研究実績の概要 |
天然黒鉛を塩と混合してボールミルすることにより、黒鉛端部に塩が吸着した新しい可溶性グラファイトを創出することに成功した。この黒鉛は、端部に塩のカチオン成分が吸着しており、極性溶媒中に分散させると、カチオンが解離し、それによって黒鉛は負のチャージが強まる。負の静電反発力によって、黒鉛は液中で容易に剥離分散可能となることが明らかとなった。分子シミュレーションにより、メカノケミカル反応により、塩が黒鉛端部に吸着し、吸着後もイオン結合性を有していることを確認した。 この負に帯電するグラファイトをアニオングラファイトと呼び、アニオングラファイトの液中での剥離分散挙動を詳しく調査した。アニオングラファイトを超音波により分散すると、主に黒鉛の端部で破断が生じ、その結果分散が良好なエッジ部と、分散性の悪いコア部に分離することが分かった。このエッジ割れによって、アニオングラファイトは短時間で容易に分散する一方で、分散性の悪いコア部が残存し、長時間の超音波でもこのコア部は分散しにくいことが明らかとなった。 また、エッジ割れによって、グラフェンの端の部分だけが切り取られ、結晶径の大きいグラフェンを得ることは難しいことが分かった。グラフェンをプラスチックと混ぜ、その高強度を発現させるためには、アスペクト比の大きいグラフェンが必要不可欠である。アスペクト比を高めるための塩をスクリーニングした結果、一部の塩において比較的アスペクト比の大きいグラフェンを得られることが分かった。メカノケミカルプロセスをより最適化することで、1μmを超える大きさのグラフェンを得ることが課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
メカノケミカルプロセスの実験的な研究は一通り行うことができたものの、そのメカニズムは依然と不明であった。そこで分子シミュレーションを専門とされている先生に、黒鉛と塩の反応とその構造の解明を依頼したところ、快諾頂き、分子シミュレーションによる反応の解析を行ってもらった。これらの協力により、我々の実験結果を理論による裏付けで補強することができ、黒鉛と塩との複合化により何故剥離分散性があがるのか、そして塩によってなぜ違いがでるのかが明らかとなった。 その理論をもとに様々な塩を用いて、黒鉛とのメカノケミカル反応の調査を行った。これまではグラフェンの評価はAFMで行っていたため、一つの種類を調べるのに1週間程度要していたが、科研費で導入したナノ粒子解析装置で粒径を測ることで、1日で大まかな粒径を知ることができるようになった。それによって、粒径の大きいグラフェンを得るための実験を多数行えることができ、グラフェンの大きさをさらに向上させるための、いくつか新しいプロセスを提案することができた。 以上の理由から、当初の予定よりも研究が進んでおり、グラフェンを利用した複合材料に関して、さらに発展させた研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンを添加することでプラスチックの強度を向上させることを目標として研究を行っているが、グラフェンの大きさは平均で400nm程度であり、補強材としての効率をさらに上げるためには1μmを超えるグラフェンを量産化したい。乾式のメカノケミカル反応を最適化しているが、大きさとして1μmを超えることは難しいことが分かりつつあり、今後は湿式によるメカノケミカル反応にも挑戦する予定である。実際にいくつか試しに行ったところ1μmを超える大きさのグラフェンを得られており、いくつか湿式粉砕装置を検討して装置を導入するとともに、その評価を進めていきたい。 一方でグラフェンは表面が平滑であるため、プラスチックとの界面ですべりが生じ、補強効果が得られにくいといった報告がされている。この界面での滑りを抑制するようなアイデアをだして、グラフェンによるプラスチックの補強効果を更に高めたい。本年度中には強度向上として30~50%の向上を達成したい。
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