研究課題/領域番号 |
19H02023
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
小林 公一 新潟大学, 医歯学系, 教授 (70296317)
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研究分担者 |
近藤 達也 新潟大学, 医歯学系, 助教 (30821813)
プラムディタ ジョナス 日本大学, 工学部, 准教授 (50615458)
田邊 裕治 新潟大学, 自然科学系, 教授 (60143020)
大森 豪 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 教授 (70283009)
坂本 信 新潟大学, 医歯学系, 教授 (80215657)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生体力学 / 膝関節 / 膝前十字靭帯 / 力学的機能 / 生体内評価 |
研究実績の概要 |
下肢関節の疾患や損傷の発生メカニズムを解明し、より効果的な予防法や診断・治療法を確立するためには荷重下における下肢関節の力学的機能を十分に理解することが重要である.2020年度は膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:以下ACL)の力学的機能について検討を行った.ACLは大腿骨と脛骨を結ぶ4本の靱帯の内の一つであり,膝関節の安定的な動作に寄与しているが,生体内評価によりその機能を検討した研究例は少ない。本研究では,ACLが前内側(AM)と後外側(PL)束の複数線維束からなり,膝屈伸に伴い緊張部位が変化することから,付着部間の長さ変化を計測することで,どの繊維束が機能しているか推定可能になると考えた.これまでACL不全膝と対側の健常膝を比較した報告はあるが,ACL損傷の有無のみを条件に比較した例はない.今回,解剖学的条件が等しい同一膝のACL損傷前後で比較することで,ACLの機能をより明確に評価できると考え,同一膝のACL損傷前後でスクワット動作時の付着部間距離を比較した.加えて,大腿骨内外側後顆近似球中心を結んだ直線(GCA)の回旋角度および前後移動量の比較検討を行った.対象は片側のACL損傷後に両側の膝運動解析を施行し,のちに健側のACL損傷を受傷した3膝である.最大伸展位から最大屈曲位までの荷重下スクワット運動を1方向連続X線透視撮影し,イメージマッチング法による運動解析を行った.ACL付着部の2点間距離を最大伸展位~90°まで10°毎に算出し,ACL損傷前後での変化の有無を比較検討した.その結果,AM束,PL束とも付着部間距離は全例伸展位で最大で,屈曲に伴い減少した.ACL損傷前後でAM束,PL束ともにACL損傷後に付着部間距離は減少傾向を示し,PL束では有意に減少した.GCAの回旋量および前後移動量は損傷前後で有意差はなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度で得られた内反型膝関節症の対側が外反型を呈する2症例に対しスロットラジオグラフィ装置と二方向回転X線撮影台を用いた立位下肢全長アライメント計測と床反力同時測定により下肢アライメントと荷重作用方向の関係から,下肢アライメントの代表的評価指標である下肢機能軸(股関節中心である大腿骨骨頭中心と足関節を結んだ軸)と床反力ベクトルの大きさおよび脛骨関節面での通過位置を評価した.両被験者とも大腿骨前捻角に左右差があり右脚に偏った荷重割合を示した。下肢機能軸と床反力ベクトルの通過点は右脚において機能軸に比べ床反力ベクトルが大きく膝後方に位置していた.この結果を基に2020年度は下肢関節力学モデルの検討を進めた.まずオープンソースの筋骨格モデル解析ソフトOpenSimによる個体別筋骨格モデルの構築と下肢アライメントの再現を試みた.同ソフトには関節自由度の制限があるため,簡易的モデルの構築は可能であるものの,完全な関節モデルの構築は困難と思われた. ACLの機能解析については,同一膝における損傷前後で検討した例は他になく,非常に貴重かつ重要な知見が得られたと考えている.特に,ACL損傷後において付着部間距離が増加ではなく変化無しまたは減少傾向を示したことは,直観には反するものの対象としたスクワットがACLには負荷を与えない動作であることを示唆しており,ACL損傷膝やACL再建膝のリハビリテーションを行う上で,非常に重要な生体力学的根拠を与えるものと期待できる.加えて,膝屈伸動作に伴うACLの緊張度は筋力を含めた様々な要因に依存すると推察されるので,関節力学モデルを構築する意義がより明確になった.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度でも引き続き立位下肢アライメントと床反力同時測定結果から筋骨格モデルの構築を行う。前述の通り2020年度ではオープンソースの筋骨格モデル解析ソフトOpenSimを用いて対象者別の解析モデルの構築とイメージマッチング法から得られた運動解析結果に基づく関節力学機能解析を試みたものの,ソフトウエア上の制約もあり,関節アライメントや関節運動の完全な再現が困難であった.2021年度では商用ソフトウエアを導入することで上記の実現を目指す. ACLの機能評価については,前年度からの継続として同一膝における損傷前後でキネマティス解析を行う。この結果をもとに,前十字靭帯が膝関節の力学機能においてどのような役割を担っているか詳細に検討するともに,上記の関節力学機能解析モデルの境界条件として使用することで,ACLの有無によるキネマティスの差異がモデル解析結果に反映するかどうか検証することでモデルの解析精度と妥当性を明示する。 人工膝関節を対象とした2D-3Dイメージマッチング法によるキネマティス解析については運動拘束性の異なる機種を対象に継続して検討を行う。一般に運動拘束性が高いほど大腿骨コンポーネントと脛骨インサート間の相対的滑り量が増大するが、接触面積も大きくなるため、接触圧は減少し脛骨インサートの摩耗量も軽減すると考えれられている。2021年度も相対的滑り量に加え、有限要素法により接触圧も解析することで脛骨インサートにおける荷重環境についてより詳細に検討を行う。さらに,関節力学機能解析モデルにおいて生体関節を人工膝関節に置き換えて解析を実行する.人工膝関節ではACLを切除するので,上述したACLが無い条件を適用することで解析精度の向上を図ることが可能と考える.
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