研究課題/領域番号 |
19H02026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
琵琶 志朗 京都大学, 工学研究科, 教授 (90273466)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / 超音波 / 非破壊評価 / 密着欠陥 / ガイド波 |
研究実績の概要 |
本研究では、密着欠陥におけるガイド波(誘導弾性波)の非線形散乱挙動を理論的、実験的に明らかにし、薄肉構造における欠陥の有無や性状を非破壊的かつ高感度に評価できる新しい原理の確立につなげることを目的としている。今年度の研究による主な成果は以下の通りである。 (1)平板を伝わるガイド波(ラム波)の密着欠陥における高調波発生挙動に関する数値解析(摂動法に基づく周波数領域での解析)を前年度に続いて行った。異なる欠陥寸法や界面剛性を仮定して解析を行った結果、いずれの場合にも欠陥部の共振に対応した周波数で高調波振幅が増大することが確認された。また、時間領域での数値解析を行って密着欠陥に入射したラム波の反射波形,透過波形のスペクトルを調べた結果、欠陥部の共振に対応した周波数の高調波や和周波数成分が含まれることがわかった。これにより,ラム波の非線形挙動に欠陥部の局所的共振が顕著な影響を及ぼすことが明らかになった。 (2)アルミニウム合金平板の突合せ接触部および疲労き裂に反対方向から異なる周波数のラム波を入射したときの散乱波をレーザドップラー振動計により測定した。両方向からラム波を入射した場合の測定波形から片方ずつを入射した場合の測定波形を引いた波形に対して時間-周波数解析を適用した結果,入射波周波数の和周波数成分が観測された。ラム波の群速度に基づく検討から、この和周波数成分は突合せ接触部(疲労き裂)における非線形周波数ミキシングにより発生したものと考えられることがわかった。平板にラム波を励起する圧電探触子に加える電圧信号の遅延時間を変化させることによって両方向から入射するラム波の交差位置を変化させたところ、交差位置が突合せ接触部(疲労き裂)に一致する場合に和周波数成分が最も強く観測された。このことから、和周波数成分に着目することによって欠陥の有無や位置に関する情報が得られることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度当初の計画では(1)密着欠陥におけるガイド波の高調波発生挙動に及ぼす入射波周波数、欠陥寸法・界面剛性の影響を調べて欠陥の共振の影響を明らかにすること、また時間領域解析でガイド波の伝搬波形やスペクトルの特徴を考察すること、(2)突合せ接触部や疲労き裂を有する平板に対してガイド波の伝搬波形を計測し、非線形スペクトル成分の発生挙動を調べること、測定機器に起因するスペクトル成分との識別方法について検討することを計画に挙げていた。このうち(1)については、板表面に平行な閉口欠陥におけるラム波の高調波発生挙動について当初計画した解析を進めることができ、前年度から行ってきた数値解析の成果と合わせてまとめた論文が学術雑誌に掲載された。(2)についても、平板の突合せ接触部や疲労き裂におけるラム波の周波数ミキシングを実験的に測定し、興味深い知見を得ることができた。また、ラム波の分散性をうまく利用すれば欠陥に起因する非線形スペクトル成分を測定機器に起因する成分から識別し得ることも確認できた。以上の状況を考慮して、本研究課題は順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の取り組みを計画している。 (1)今年度までの研究により、密着欠陥を非線形スプリング界面としてモデル化してガイド波の非線形挙動を解析する問題を摂動法によって線形化し、周波数領域で有限要素法により解析する方法が基本的に整えられた。今後は、密着欠陥における超音波(バルク波、ガイド波)の非線形挙動をより忠実に解析するため、非線形スプリング界面モデルの精密化を検討する。特に、これまでに行ってきた理論解析で得られる知見と実験結果との対応を考察し直し、界面のモデルパラメータが非線形超音波特性に与える影響を詳しく調べる。 (2)今年度までの実験的検討で平板の突合せ接触部や疲労き裂によるラム波の高調波発生や周波数ミキシングの測定が可能となった。次年度もこれらの実験的検討を継続し、測定方法やデータ処理方法の改良を試みる。さらに、ガイド波(ラム波)の非線形スペクトル成分に着目して欠陥の有無や位置を同定するための方法について検討する。
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