研究課題
今年度は研究分担者の朴助教が作製した非常に高い延性を示すFe-31M-3Al-3Si鋼を用いて、延性変形を生じる材料において結晶粒径が変形機構の支配因子の一つであることを実験的に証明した。TWIP材料(高Mn鋼)をバルクナノメタル化(結晶粒超微細化)すると、塑性変形機構が粒内転位によるすべり変形から粒界を起点とする双晶変形に遷移し、粒界から多数のナノ厚さを有する双晶が生成することを、TEMその場観察などにより明らかにした。こうした多数のナノ双晶がマトリクスの転位と相互作用することで、優れた加工硬化特性が得られたものと考えられる。さらに、金沢大学下川教授の協力によりMDによる原子シミュレーションを実施した結果、隣接粒の応力集中が粒界からの双晶発生や双晶の厚みに影響を与えることが示唆された。一方で、同じ化学組成で粒径が10umを超える粗大粒材においても同様に直視観察を行った結果、粒界性格により塑性変形に伴う粒界での転位反応が異なるこという実験データが得られた。データに結晶塑性学的検討を加えたところ、粒界によってシュミット因子が必ずしも最大でないすべり系が活動していることが示唆された。また、三次元・直視観察をリアルタイムで実現するための手法開発として、高速で撮像した動画の時間分解能を最大限に保ったままナノスケールの現象を観察するための画像処理手法を検討した。1) 東京大学理学部中村教授、原野准教授と共同で、真空中における単分子の振動を超高速撮像(最大1600fps)した動画から、分子の挙動を定量解析するという実証実験を行った(日本化学学会欧文誌論文賞受賞)。2) 三次元観察に必要なデータ取得を従来より100倍高速で行うナノイメージング手法開発に成功した。機械学習を応用した画像処理方法を開発することで従来30分以上かかっていたデータ取得を5秒程度まで短縮することができる、三次元リアルタイム観察を行うために必須の要素技術を確立した。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画に挙げた課題に関して:「その場変形TEM観察用試料作成方法の確立」については、今年度までに分子動力学または結晶塑性学的な解析が可能な程度の品質を有する直視観察データが得られたため、目標を達成したと考えている。また、「実用金属合金の変形・破断過程の直視観察」についても、粗大粒材と超微細粒材での塑性変形組織の直視観察に成功し、変形機構の支配因子を明らかにするという目的が達成されつつある。さらに三次元観察とその場観察を融合させるための技術開発も順調に進んでいる。なお、コロナ禍により学内外での対面活動および出張などの制限が生じたため、予算の計画的な執行に一部遅れが生じた。
この2年間で得られた個々の成果を基に、来年度は粒界性格による変形機構の違いと結晶粒系の影響を統一的に理解すべく塑性変形により生じたひずみの粒界近傍における分布やその変化などに注目した深堀りを行う計画である。特に破断過程の直視観察に関しては、硬質相と軟質相を持つ二相合金を用い、破壊亀裂の三次元および直視観察を予定している。三次元観察とその場観察を融合させるための技術開発に関しても、特にデータ処理の最適化を念頭に進めていく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 7件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
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