研究課題/領域番号 |
19H02032
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
田原 大輔 龍谷大学, 先端理工学部, 准教授 (20447907)
|
研究分担者 |
稲葉 裕 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (40336574)
小野 景子 同志社大学, 理工学部, 准教授 (80550235)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | バイオメカニクス / 筋骨格シミュレーション / 有限要素解析 / 変形性関節症 / 歩行解析 / 人工股関節置換術 / 歩容異常 / 個体別モデリング |
研究実績の概要 |
本研究では,筋骨格シミュレーションから算出された筋力,関節反力を荷重条件とする骨の有限要素解析(FEA)の計算フローの確立,高速・高精度な骨のモデル構築のためのCT画像に対するセグメンテーション技術の開発と妥当性評価,これらを用いた変形性股関節症(HOA)歩行時の筋力変化と骨の応力分布の関係の解明を目的としている.令和二年度は,新規セグメンテーション技術の開発の継続とその妥当性の評価を行うとともに,人工股関節全置換(THA)術前のHOA患者の歩行動作を入力とする筋骨格シミュレーションにおいて,患者の骨形状,筋断面積に基づく筋強度の反映が筋力推定に与える影響を評価した.主な研究概要は,以下の3点である. 1.令和元年度に構築済みの筋骨格シミュレーション-FEAの計算フローに対し,各解析システムのバージョンアップに対応させるためのデータコンバータの改良を行った.また,筋骨格シミュレーションに患者の骨形状を反映させるモーフィング技術支援として,複数のソフトウェアの活用の可能性を探った.さらに,HOA患者の歩行動作を用い,計算フローの妥当性を評価した. 2. 骨のCT画像セグメンテーションのための学習画像の作成を数理最適化手法により半自動化した新規セグメンテーション技術の開発を令和元年度から継続した.開発手法の抽出の精度と時間の評価のため,椎体(模擬骨)の試験片を作成してCT撮影し,セグメンテーションの従来手法と開発手法により作成した各モデルに対してFEAおよび,試験片に対する圧縮負荷試験を行い,圧縮主ひずみの結果を比較した. 3. 代表的なHOA患者の歩行データを入力とする筋骨格シミュレーションにおいて,患者の骨形状と,筋断面積と密接に関連する筋強度の反映の有無で計算を行い,それらが推定筋力に与える影響を評価した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. 構築済みの筋骨格シミュレーション-FEAの計算フロー内の各解析システム:AnyBody Modeling System(AMS),FrontISTR自体のバージョンアップに対応するデータコンバータの改良作業を進め,基本的な連携計算フローは維持できた.患者の骨形状をAMSに反映する際に必要なモーフィングにおいて,AMS内の標準骨形状と格子点の数と順が一致した患者の骨形状データが必要なため,このデータ準備を支援する3次元形状処理の既存ソフトウェアを探った.複数の候補が該当し,より簡便に計算フローに組み込み可能な手段を検討中である. 2. 椎体(模擬骨)試験片を対象としたセグメンテーションにおいて,解像度の向上に伴う計算量の大幅増加に耐え得る環境構築と学習データの精査を行い,許容解像度を2倍程度向上しつつあるが,開発継続中である.現段階で医用画像内の注目領域の抽出結果を検証するため,セグメンテーションの従来手法と本開発手法により作成したモデルに対するFEAと,実椎体モデルに対する圧縮負荷試験を行った.本開発手法は,抽出された骨外形状が粗くてもその力学解析結果は実験結果に近い値となることが示唆されたが,より詳細な検討の継続は必要である.本年度は,コロナ禍による研究場所(大学)への入構制限等により,開発・解析計画に一部遅れが生じた. 3. HOA患者の歩行中の筋力推定において,患者の骨形状と,筋断面積と関連する筋強度,両者ともに筋力に密接に影響するが,特に筋強度が顕著に筋力に変化をもたらすことがわかった.このため,MRI画像等からの筋のセグメンテーションの重要性が新たに示された.データ取得について,横浜市立大学内でのHOA患者の歩行動作計測がコロナ禍で容易でない時期があったが,THA術は月に15~20件程度あるため,現状,データ収集・蓄積は進んでいる.
|
今後の研究の推進方策 |
1. 連携計算フローにおいて,骨のFEモデル形状をAMSへ反映する際のスケーリング技術,モーフィング技術の適用時に依然として一部手作業を要するため,この解消のための新たなツール構築・システムの適用の試行を継続する. 2. 同一のHOA患者の術後3カ月時・1年時の歩行に対応するFEAの実施を進め,これを複数患者に対して行う.時間を要する骨盤形状とTHA挿入位置,術後の骨密度分布の変化のモデル化には,引き続き注力する. 3. 開発継続中のセグメンテーション手法について,令和元年度と同じパラメータでセグメンテーションを実施した時に,予期しないエリアが抽出される等の雑音の発生が認められたため,学習に使う正解ラベルが記されている正解データの精度を確認し,その性能を向上させることにより,雑音を下げるなど対策を盛り込んだ手法提案を行う. 4. 筋骨格シミュレーション-FEAの連携フローから得られた力学解析結果と,医療データからわかるデータとの照合,比較を行い,解析結果の妥当性や新たな診断・治療戦略への応用の可能性を議論する. 5. 筋のセグメンテーション技術の動向調査を行い,連携フローへの適用や,技術を持つ研究者との新たな研究交流・予備検討を模索する.
|