研究課題/領域番号 |
19H02034
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
小熊 博幸 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (80515122)
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研究分担者 |
吉中 奎貴 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 研究員 (00825341)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超高サイクル疲労 / 内部起点型破壊 / 放射光X線nano-CT / 粒状領域 / 高強度金属材料 |
研究実績の概要 |
高強度金属材料において「超高サイクル疲労」の重要性が指摘されている.超高サイクル疲労の特徴として内部起点型破壊が挙げられる.内部起点型破壊は一般的な表面起点型破壊よりも低い応力,長い寿命(繰返し数1000万回以上)で生じる.そして,内部起点型破壊の破面上においてのみ凹凸の大きさが1マイクロメートル以下で粒状の様相を呈した特異な領域(粒状領域)が形成される.粒状領域の形成は内部起点型破壊の特性と強い相関があると考えられる.本研究では「疲労き裂が曝される環境(真空/大気)」と「力学的条件(圧縮負荷)」に着目し,粒状領域の形成機構を実験的に明らかにする. Ti-6Al-4V合金(以下,Ti64)を対象として真空中で繰返し接触をさせることを目的として,ナノインデンターを用いた繰返し圧縮試験を走査型電子顕微鏡内で実施した.圧子を集束イオンビームにより加工し,そのまま試験に供することによりTi64の新生面同士を真空中で接触させた.その結果,接触部における凝着が確認された. 繰返し接触における表面状態の変化過程(時間変化)を捉えるために,繰返し接触試験中の電気抵抗測定を実施した.大気中では繰返し数が1000万回を超えた時点から抵抗値が急激に低下することが確認された.1000万回程度の接触と分離を繰り返すことにより炭化物や窒化物が形成され,抵抗値が変化することが示唆された. 真空中繰返し接触試験において形成された粒状領域の状態を非破壊で明らかにするために,放射光nano-CTを用いた観察を行った.その結果,粒状領域直下の組織内に形成される微小き裂ならびに空孔を捉えることが可能であることが確認された.内部起点型破壊で観察される粒状領域においても同様に観察される可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
球面繰返し接触試験における電気抵抗測定を実施した.抵抗測定のためのジグを作製した.大気中では繰返し数が1000万回を超えた時点で抵抗値が急激に低下することが確認された.球面上にはドーナツ状の模様が観察された.抵抗値の低下と表面状態の変化に相関があることが予想される.真空中でも同様の実験を行い,試験方法について検討した.試験片形状ならびに取付方法について修正が必要であることが明らかになった. 真空中での繰返し接触による表面状態の経時変化を明らかにするために,電子顕微鏡内でナノインデンターを用いた実験を行った.集束イオンビームを用いてTi64で圧子を作製し,Ti64同士で繰返し接触をさせた.圧子の加工ならびに接触面の仕上げは電子顕微鏡内すなわち真空環境中で行い,繰返し接触まで大気に曝すことなく実験を行った. 超高サイクル疲労に関する国際会議(VHCF8)で本研究に関する講演を行った.また,これまでに得られた結果をまとめ,粒状領域形成機構のモデルに関する論文を投稿した. 一部の実験で予定よりも若干遅れているが,これまでの成果を国際会議での講演ならびに論文の投稿で発表したので,「おおむね順調に進展している」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
真空中繰返し接触による表面状態の経時変化を捉える.昨年度の実験で明らかになった問題点を修正し,球面繰返し接触試験における電気抵抗測定を実施する.大気中の結果と比較することにより,表面状態が変化する過程すなわち粒状領域の形成過程を明らかにする. 粒状領域直下の微細化した組織の部分から試験片を切り出し,電子顕微鏡内で引張・圧縮試験を行うことにより変形挙動や強度特性を明らかにする.そして,微細化と凝着による凹凸形成との相関を検討する.得られる強度特性を力学解析モデルに適用する. 球面同士の接触に関するモデルを作製し力学解析を行い,応力やひずみの状態と微細層形成との相関について明らかにする.また,真空中で生じる凝着現象をモデルに入れ込むことにより,凝着の有無が応力やひずみの状態に与える影響について評価を行い,材料表面と内部で疲労き裂周囲の応力状態がどのように変化をするか検討する.また,真空環境と組織変化(微細化,空孔やき裂の発生)との相関について明らかにする.そして,表面き裂と内部き裂で進展特性が異なる原因について定量的に明らかにすることを試みる.
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