研究課題/領域番号 |
19H02039
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
丸尾 昭二 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (00314047)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アディティブ・マニュファクチャリング / 3Dプリンティング / 光硬化性樹脂 |
研究実績の概要 |
2光子マイクロ光造形法は、最も高精細かつ微細な3Dプリンティングである。従来は、単一の光硬化性樹脂で3D微小構造体が作製されてきたが、さまざまな機能デバイスを作製するために、複数種の材料を組み合わせたマルチマテリアル造形の開発が期待されている。そこで本研究では、局所加熱によって微小な樹脂液滴を遠隔操作することにより、複数種の材料を入れ換えながら3D構造体を一体作製できるマルチマテリアル3D造形法の開発と応用研究に取り組んでいる。まず、本年度は、局所加熱による樹脂液滴の駆特性を評価し、最適な駆動条件を探索した。具体的には、光硬化性樹脂をガラス基板上に滴下し、局所加熱によって樹脂液滴を遠隔駆動する実験を行い、加熱条件(強度、位置、移動速度など)と基板の材質や表面処理を変更し、さまざまな光硬化性樹脂液滴の駆動特性を評価した。その結果、最適な加熱条件、樹脂液適量、基板の表面処理を決定した。さらに、局所加熱装置を自動ステージに設置し、樹脂液滴の移動と3D造形を連動させて、自動的にマルチマテリアル3D造形を行う装置を構築した。本手法では、造形後に樹脂液滴を移動させる際に、造形物の周囲にわずかに未硬化の樹脂が付着する。そこで、造形位置から未硬化の樹脂液滴を移動させた後に、洗浄液を遠隔移動させて、造形物周辺の未硬化樹脂を完全に除去する方法を確立し、造形工程に加えて、洗浄工程も自動化した。これにより、材料のコンタミネーションを完全に防止し、樹脂液滴の再利用が可能となった。さらに、マルチマテリアル3D微小構造体のフォトニクス 分野への応用を目指して、屈折率の異なる樹脂を調合し、屈折率の異なる5種類の樹脂液滴の駆動にも成功した。今後、GRINレンズやマイクロレンズなどを試作する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、本年度は、まず、実施項目(1)局所加熱による樹脂液滴の駆動原理・特性の解明を目標としていたが、本年度の基礎実験によって、ガラス基板上に滴下したさまざまな光硬化性樹脂を局所加熱によって遠隔駆動させる実験条件を探索し、局所加熱の温度や温度分布、さらにはガラス基板の表面処理などに関して最適な実験条件を見出すことができた。次に、実施項目(2)として、液滴操作によるマルチマテリアル3D造形装置の構築を上げていたが、液滴の遠隔操作に用いる加熱装置を自動ステージに設置し、樹脂液滴の移動と3D造形を連動させて、自動的にマルチマテリアル3D造形を行う装置を構築できた。また、樹脂だけでなく、未硬化の光硬化性樹脂を洗浄するための洗浄液も遠隔移動できる実験条件を見いだし、洗浄工程も自動化できた。さらに、造形開始位置を自動的に検出するために、2光子マイクロ光造形法において焦点において硬化する樹脂を観察した画像から樹脂の硬化を自動的に検出する計測法を提案・実証し、実際に、焦点を自動的に検出して繰り返して微細な3D造形を行うシステムを構築した。最後に、実施項目(3)のマルチマテリアル3D微小構造体の試作に向けては、屈折率の異なる複数種の光硬化性樹脂を調合し、それらを用いた造形条件を決定した。今後、これらの樹脂を用いてマイクロレンズなどを試作する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の研究に取り組む予定である。まず、実施項目(1)として、「液滴操作によるマルチマテリアル3D造形装置の改良」に取り組む。具体的には、本年度開発した、樹脂液滴の移動と3D造形を連動させて、自動的にマルチマテリアル3D造形を行う装置を改良し、より多種類の樹脂材料の適用と大面積造形を目指す。特に、液滴の移動に用いる加熱装置を高出力化し、温度勾配のさらなる最適化を行い、高粘性樹脂材料やコンポジット材料の移動と造形も可能とする。また、より効率的かつ高速な移動を実現するために、加熱方法の変更も検討する。また、実施項目(2)として、「複数の光硬化性樹脂を用いた高性能レンズの設計・試作」に取り組む。具体的には、昨年度調合した屈折率の異なる5種類の光硬化性樹脂を用いて、GRINレンズやマイクロレンズを設計する。そして、実際にマルチマテリアル3D造形装置を用いて試作したレンズにレーザー光を入射させて、その集光特性を評価する。さらに、実施項目(3)として、新たな応用デバイスの例として「THzメタマテリアルの設計・試作」に取り組む。まず、電磁場解析によって特定の周波数帯を吸収するメタマテリアルを設計する。構築したマルチマテリアル3D造形システムを用いて、2種類の光硬化性樹脂からなるメタマテリアルの3D微小構造体を一体造形し、その後に一方の樹脂のみに選択的に無電解めっきを施すことで、樹脂と金属の複合体からなる3Dメタマテリアルを試作する。
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