研究課題/領域番号 |
19H02051
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
上坂 裕之 岐阜大学, 工学部, 教授 (90362318)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スパッタリング / PVD / HiPIMS / 小ロット生産 / 硬質膜 / TiN / DLC |
研究実績の概要 |
本研究では,棒状基材の全周を包囲する円筒ターゲット内面に沿ったマグネトロン放電により,基材外周にMS(Magnetron Sputtering)成膜を行う装置を試作した.このような基材包囲型MS装置が硬質膜堆積に応用された例がない.そこで今年度は試作した装置を,DC放電モードで駆動した場合(DCMS法)とハイパワーインパルス放電モードで駆動した場合(HiPIMS法)の比較を行った.具体的には,円筒ターゲットをTiとし窒素含有雰囲気下でスパッタリングを行うことで,鋼材棒(直径10 mm,長さ80 mm)の外周にTiNを成膜した. DCMSおよびHiPIMS駆動時において,それぞれガス流量をAr:2 sccm, 窒素:6 sccm,およびAr:21 sccm, 窒素:1 sccmとした場合に,同一のターゲット電圧(-400V)および平均電力密度(3.66 W/cm2)の放電が得られた.(HiPIMS 法による成膜時のピーク電力密度は 502 W/cm2 であった.)これらの条件下で成膜したTiN膜のXRD解析を行ったところ,TiN由来の回折線が主であった。SEM による表面観察の結果,HiPIMS 法による TiN膜と比べて DCMS 法による TiN 膜は,多くのドロップレットを含む表面であった。また,DCMS 法では,ひしめき合っている粒状組織のサイズが概ね 0.2 µm を超えているのに対して,HiPIMS 法による膜の表面では,同様の粒状組織のサイズは主として0.2 µm 以下であった。HiPIMS 法およびDCMS 法で得たTiN 膜のインデンテーション硬度は,それぞれ1895 HV,1082 HV であった.また,HiPIMS 法およびDCMS 法で得たTiN 膜表面の算術平均粗さはそれぞれ0.042,0.264マイクロメートルであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載した通り,新たに考案した試作装置(基材包囲型MS装置)が,狙った通りにマグネトロンスパッタリング装置として作動した.さらに, DC電圧による駆動(DCMS法)に加えてHi-Power Impulse電圧による駆動(HiPIMS法)においても硬質なTiN膜の成膜が可能であることが実証された.以上により,本研究の二年目終了時点までの主たる目的が達成された.(一方で成膜レートや均一性において,実用成膜装置として所望の性能を発揮するための改善・改良の余地は残されている.それらの背景メカニズムの解明を進めながら,課題解決に取り組む.)
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの成果をさらに発展させるために,次年度には,以下の項目⑤⑨を実施することにより,基材包囲型MSの硬質炭素膜堆積における基礎特性を明らかにする.(申請書の4頁に①-⑨として記載してあるため,その番号をそのまま用いる.) ⑤円筒グラファイトターゲットを用いた基材包囲型MSによるa-C膜の超高速成膜(研究ポイント:a-C膜が従来のMSレベルの硬度(押込硬度20 GPa)と摩擦摩耗特性を有することを明らかにする.) ⑨円筒グラファイトターゲットを用いた基材包囲型HiPIMSによるイオン化率増加が膜構造に及ぼす影響の解明(研究ポイント: 水素フリーDLC膜のta-C化による硬質化(押込硬度40 GPa以上)を明らかにする.また膜構造のta-C化をsp2/sp3結合率の計測(XPSやNEXAFS等)により確認する.) また以下の項目⑧を実施することにより,基材包囲型HiPIMSによるTiN成膜における成膜レートや膜質の向上を実証する ⑧Ti円筒ターゲットを用いた基材包囲型HiPIMSによるイオン化率増加が膜質に及ぼす影響の解明(研究ポイント: HiPIMS駆動時のイオン化率増加や入射イオンのエネルギー制御による膜組織の微細化をSEMやXRDによって示す.*エネルギー制御:ターゲットバイアス電圧の極性反転や基板バイアス電圧の印可により基材に入射するイオンにエネルギー(0-200eV程度)を与える.)
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