本研究では,超音波による液晶配向制御技術およびその光デバイスへの応用について検討した.超音波と液晶を用いた光デバイスとして,光学的焦点距離を制御可能な光学レンズを開発し,下記項目について検討を行った. 1.レンズ焦点位置の径方向制御:レンズに用いる圧電超音波振動子を径方向に分割することにより,その焦点位置を径方向に制御可能な可変焦点レンズを開発した.従来の光軸方向制御機能と併せることにより,3次元焦点制御を実現できる. 2.液晶層厚みの最適化:提案する超音波液晶レンズにおいて,液晶層厚みを変化することにより,その最適な液晶層厚みを検討した.実験結果より,一般的な液晶デバイスと比較して大幅に厚い約200μmの液晶層厚みにおいて,最も大きい焦点距離変化幅が観測された.そのため,以後の検討項目においては,本最適値を採用した試作機を開発した. 3.多層型液晶レンズの開発:従来の単層型液晶レンズの欠点として,焦点変化幅が数100μmレベルと小さい点が挙げられた.この問題を解決するため,液晶層をレンズ表裏両面に有する多層液晶レンズを開発した.従来の単層液晶レンズと比較し,約1桁程度の焦点変化幅(約4 mm)の増大を実現した.本結果は,液晶レンズの産業用途への実用化を考えた場合極めて重要である. 4.液晶分子の3次元的配向分布測定:液晶分子配向測定として用いられるクリスタルローテーション法を用いて,レンズ中の液晶分子の詳細な3次元的配向方向の測定を行った.レンズ上に励振される超音波振動分布と,レンズ内部の液晶の3次元的配向分布との関係性を検討した結果,振動分布の空間勾配と液晶傾斜との間に強い相関が見られた.また超音波駆動下における液晶配向分布の定量的測定に成功した.本測定結果を,今後超音波液晶レンズの光学設計に組み込む予定である.
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