研究課題
プラズマアクチュエータにおける大気圧放電の数値モデルを拡張し,周囲流体(空気)とのカップリングシミュレーションの結果と実験結果を比較することで,モデルの定量的妥当性を検証した.放電の数値モデルは,プラズマの化学反応に特に着目し拡張した.具体的には,プラズマの詳細再結合モデルと累積電離モデルを順に組み込み(計80種の化学反応),6化学反応のみを考慮したシンプルモデルと,電気流体力生成・ジュール発熱の観点から比較を行った.その結果,体積力生成とジュール発熱のプロセスに主要な役割を果たすのは,シンプルモデルで考慮している6化学反応であることが分かった.ただし,クラスターイオンを介した再結合は反応レートが高く,定量的な影響があることが分かった.シンプルモデルにおいても,クラスターイオンを考慮した再結合係数を設定することが重要である.6化学反応を考慮したシンプルモデルと空気の流動をカップリングシミュレーションし,PIV計測(流速分布計測),推力計測,消費電力計測結果と比較した.その結果,推力については,10%程度の精度で実験結果と一致した.これは,実験における計測の不確かさの範囲内であり,十分な定量的精度であると言える.一方で,消費電力には50%程度のずれがあり,また印加電圧波形特性も一部再現できないケースがあった.これは,ストリーマ型放電へのモード遷移が起こる電圧に定量的なずれがあることが一因と思われる.プラズマアクチュエータのジュール発熱特性を実験的に調査することを目的に,Background Oriented Schlieren(BOS)法の計測システムを整備し,プラズマアクチュエータ周りの密度場を計測することに成功した.ジュール発熱は,電気流体力と並んで,プラズマアクチュエータが流体に作用するメカニズムの一つであり,ジュール発熱特性を明らかにすることは大きな意義がある.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,放電プラズマの数値シミュレーションモデルの拡張と,実験結果との比較からその妥当性を評価することに成功している.推力(プラズマアクチュエータが生成する電気流体力によって誘起されるジェットの反力)という観点からは,シンプルモデルで10%以内の精度で定量的に実験結果と一致した.これにより,空間平均・時間平均されたマクロな観点での電気流体力生成においては,6化学反応が支配的な役割を果たしていることが明らかとなり,電気流体力生成の物理メカニズムの一端を解明できたと言える.また実験においては,BOS法の計測システムを整備し,プラズマアクチュエータ周りの密度場を定量計測することに成功した.これにより,プラズマアクチュエータのジュール発熱場解明へ,実験的にアプローチする準備ができたと言える.以上から総合的に判断して,本研究課題は概ね順調に進展していると言える.
シミュレーションと実験の間には,解決できていない定量的ずれがある.消費電力の観点からは50%程度の定量的ずれがあり,また,流速場の分布においても誘起ジェットの厚さに定量的差が出る.これらのずれが生じる主な要因として,ストリーマ型放電へのモード遷移が定量的に捉えられていないことが考えられる.これを解決するため,シミュレーションコードを3次元化する.また,空気の流動とのカップリングの際に,ジュール発熱の影響を考慮できていない.ジュール発熱場を解明することは,プラズマアクチュエータの研究開発において重要なトピックスであり,BOS法との比較のためにも,ジュール発熱の影響も含めたカップリングシミュレーションコードの開発を行う.実験においては,2020年度に放電プラズマの発光を高速撮像する設備を整えられたため,放電形態の高速撮像を実施し,プラズマの3次元シミュレーションとの比較する.これにより,放電モード遷移の観点からシミュレーションコードの妥当性を検証する.
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Physics of Plasmas
巻: 27 ページ: -
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