希薄気体力学の理論研究の長い歴史の中で、固気・気液の境界面近傍の気体の非平衡効果を、界面におけるすべりの境界条件を通して、界面から離れた領域を支配する流体力学方程式の解に取り込む理論はおおむね完成されてきた。しかしながら、その理論は、界面に対する法線方向の座標に強く依存する1次元的非平衡流れを扱う。この理論では、界面に対する接線方向の諸量の変化は十分に緩やかであることが前提となっている。一般に、界面近傍には様々な2次元的あるいは3次元的非平衡流れが生じ得るが、これに対応するすべりの境界条件に対する研究は不十分である。本研究では、空間2次元あるいは3次元のボルツマン方程式の境界値問題の精密な数値解を求め、その解の非平衡な振る舞いの特徴を明らかにし、空間多次元性非平衡流れと流体力学方程式の解を接続する理論を構築する。本研究の目的は、境界近傍の空間多次元性非平衡流れと流体力学方程式の解を接続する理論を構築することである。具体的には、(i) 境界近傍の多次元性非平衡流れの特徴を明らかにし、(ii)境界の遠方の局所平衡流れが満たすべき条件を求め、(iii) すべりの境界条件を定式化する、という問題に取り組むことである。とくに、希薄気体中で調和振動する平板および円筒形状の固体境界のまわりの流れの数値解を精密に求めてその特徴を明らかにするなどの流れの研究に加えて、未だ解明されていない線形化ボルツマン方程式の分散関係の探求をとおして、境界近傍の運動量接線成分の理論解析などを行い、数値的かつ理論的な成果を得た。
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