研究課題/領域番号 |
19H02072
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
新宅 博文 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 理研白眉研究チームリーダー (80448050)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロ流体 / 1細胞 / 電気泳動 / 電気穿孔 / RNA |
研究実績の概要 |
我々は電場を活用して1細胞から細胞質成分を抽出するマイクロ流体技術を開発しており,これを応用した1細胞電気泳動解析の確立を目指している.本年度は,細胞質成分の抽出におけるRNA分子の流動現象について力学的観点から考察した.ここでは慢性白血病由来のK562細胞株を用いて抽出過程におけるRNA分子の挙動を観察した.細胞質から抽出されたRNA分子は主に溶液中に分散した状態と,粒子状に凝集した状態の二状態が観察され,この二種が異なる流動現象を示すことがわかった.具体的には分散状態のRNA分子は粒子状のそれと比較して短時間で細胞外へ抽出され,その抽出過程は単調かつ再現性の高いものであった.一方で粒子状に凝集したRNA分子は間欠的な抽出過程を示し,細胞ごとにばらつきを示した.この抽出過程に観察された細胞ごとのばらつきの由来を明らかにするため,細胞の顕微鏡画像から取得した形態情報と抽出の時定数を相関解析し,粒子状のRNA分子はミトコンドリア由来のRNA分子であり,それらの局在状態が抽出過程を左右することがわかった.さらにRNA分子の流動現象を数値計算により解析した.解析からRNA分子の抽出過程は電気泳動に支配されており,分子拡散による影響は相対的に小さいことがわかった.自由溶液中におけるRNA分子の電気泳動移動度がその長さに依存しない一方で拡散係数は長さの増加に伴って減少することを勘案すると,数値解析結果は本方法がRNA分子の長さに依存しない均一な抽出を実現する上で有利であることを示唆している.これらの解析結果についてAnalytical Chemistry誌および複数の専門会議において公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の開発した1細胞から細胞質成分を抽出するマイクロ流体技術が長さバイアスの少ない細胞質RNAの抽出を実現することを示した.このことは本技術がRNAの網羅解析など多くの応用に適していることを意味している.1細胞電気泳動解析において高分解能の分離を達成する上でも重要な知見である.2020年度に計画している並列化システムの開発には既に着手しており,当初予定あるいはそれ以上に進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
1細胞の細胞質成分の電気泳動解析を並列で実現するマイクロ流体システムを開発する.マイクロ流体システムは48個の1細胞の並列解析を実施する.これを達成するため,我々は,複数の細胞を含む細胞分散溶液を導入すると,水頭差による受動的な流れで細胞を誘導し,電気泳動解析用のマイクロ流路1つずつに個別に1細胞を捕捉するマイクロ流路構造を開発する.また,48の電気泳動解析用マイクロ流路に対して均一に外部電場が与えられる構造とする.これに加えて,本マイクロ流体システムの制御装置を開発する.制御装置は流れおよび電場を順次制御し,蛍光顕微鏡画像を出力する.さらに,蛍光顕微鏡画像から電気泳動図を再構成するプログラムを開発する. 電気泳動解析と遺伝子発現解析を接続するためのカラーコードビーズを開発する.カラーコードビーズとは蛍光特性とDNAバーコードが対応する微小ビーズであり,オンチップで計測する細胞の蛍光画像,電気泳動図と次世代シーケンス解析の接続を可能にする.具体的には,あらかじめマイクロ流路にカラーコードビーズを導入し,48の電気泳動解析用マイクロ流路出口に配置する.それぞれのカラーコードを蛍光顕微鏡画像から読み出し,細胞画像,電気泳動図およびカラーコードを紐付けする.カラーコードは微小ビーズ生産の段階でDNAバーコードとあらかじめ紐付けされているため,次世代シーケンス解析を用いた遺伝子発現解析と同時にDNAバーコードを読み出し,細胞画像,電気泳動図および遺伝子発現解析結果の全てが紐付けできる.これら異なるモダリティから得られる情報を統合し,多角的に細胞状態を定量する方法を構築する.
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