研究課題/領域番号 |
19H02074
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
戸谷 剛 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00301937)
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研究分担者 |
小林 一道 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80453140)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 溶剤 / 赤外線吸収 / 波長 / 乾燥 / 界面 / 蒸発 |
研究実績の概要 |
溶剤として水を用い、水の界面に赤外線を連続照射した時の分子内振動の緩和挙動を、溶剤でのプローブ光の反射をFT-IRでスペクトル解析することで明らかにした。この成果は、本研究の「溶剤が吸収する赤外線を気液界面の溶剤分子に連続照射して分子内振動を励起し、分子内振動が分子間振動へ変換(緩和)される挙動を明らかにする」目的に合致した成果であり、溶剤の乾燥に効果的な波長を明らかにする最終目標ための前段階に位置する重要な成果である。 数値解析では、研究実施計画通り、Boltzmann方程式解析から蒸発量を計算する手法を確立した。この手法の確立は、研究目的としていた「緩和挙動を組み込んだ分子動力学解析と分子動力学解析によって得られた境界条件を用いたボルツマン方程式解析によって、溶剤の蒸発量を求め、溶剤乾燥に効果的な溶剤の赤外線吸収帯を溶剤(水、IPA、トルエン) ごとに解明する」につながる重要な成果である。さらにこの手法により、蒸発量を効率的に多くするには、界面の水分子の 回転温度よりも並進温度を高くすることが必要であることが分かった。また、非凝縮性気体の圧力(分圧)が,液体の温度で指定される飽和蒸気圧力の5倍程度大きい場合、蒸気の運動は拡散方程式で記述できること、5倍以下の場合には、拡散方程式のみでは記述できず、蒸発によって生じた蒸気は界面からある有限の速度をもって気体側に輸送されることが分かった。これらの成果は、界面での蒸気のダイナミクスを理解し、蒸発量を効果的に大きくするための重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、下記の2項目を行った。 (2019-1)溶剤の気液界面に赤外線を連続照射した時の緩和挙動の把握 (2019-2)分子動力学法とボルツマン方程式解析から溶剤の蒸発量を計算する計算手法の確立 (2019-1)では、予定通り、FT-IRに組み込むポンプ-プローブ法用アクセサリーの選定および購入、MIMエミッタの設計および製作を完了した。さらに、溶剤として水を用い、水の界面に赤外線を連続照射した時の緩和挙動を、水とリファレンスにプローブ光を照射した時の反射光を検出器で検出し、FT-IRでスペクトル処理し、反射スペクトルの違いを比較することから、明らかにした。得られた結果を、文献と比較し、装置が問題なく稼働することを確認した。 (2019-2)では、計画通り、Boltzmann方程式解析から蒸発量を計算する手法を確立できた。さらにこの手法を用いて、最終目標につながる以下の成果が得られた。(2019-2-1)多原子分子から構成される液体の蒸発現象について、数値解析を行った。その結果、気液界面における水分子の並進温度(並進エネルギー)を高くするほど蒸発量が多くなることを確認した。また、界面水分子の回転温度(回転エネルギー)を大きくしても蒸発量は多くなるが、並進温度ほど蒸発量は大きくならず、ある回転温度以上となると、回転温度を高くしても蒸発量は変わらなくなることが分かった。(2019-2-2)蒸気(凝縮性気体)と非凝縮性気体から成る混合気体に接した液体蒸発現象に関して数値解析を行った。その結果、非凝縮性気体の圧力(分圧)が、液体の温度で指定される飽和蒸気圧力の5倍程度大きい場合、蒸気の運動は拡散方程式で記述できることが分かった。この値が5倍以下の場合には、蒸気は拡散方程式のみでは記述できず、蒸発によって生じた蒸気はその界面からある有限の速度を持って気体側に輸送されることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
実験では、今年度(2019年度)の研究で、溶剤の界面に赤外線を連続照射したときの分子内振動の緩和挙動を測定する方法が確立したので、どの分子内振動が蒸発に効果的であるか調べる研究に進む。数値解析から得られた成果より、並進運動する振動モードが蒸発に効果的であることが予測されたので、実験により、実証を行う。さらに、水以外の溶剤に対しても赤外線を連続照射したときの分子内振動の緩和挙動を調べ、蒸発に効果的な分子内振動の波長を明らかにする。 数値解析では、今年度の研究で、Boltzmann方程式を用いた蒸発流れの計算手法を確立することができたので、2020年度からは分子動力学法を用いて、このBoltzmann方程式の境界条件の構築を行う。また、 蒸気(凝縮性気体)と非凝縮性気体から成る混合気体に接した液体蒸発現象に関しては、論文にまとめ、発表する。
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