研究課題/領域番号 |
19H02075
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
齋木 悠 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60550499)
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研究分担者 |
杵淵 郁也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30456165)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 燃焼 / 壁面効果 / 表面反応 / ラジカル / プラズマ |
研究実績の概要 |
燃焼器の壁面は火炎の境界条件を規定し,特に車載用や分散発電用などの小型燃焼器では壁面の影響が顕在化するため,火炎の安定性や排出ガス特性が著しく悪化する.火炎に対する壁面の消炎効果には,流体力学的・熱的効果に加え,壁面で火炎中のラジカルが吸着・再結合して消失する化学的効果が存在するが,化学的効果に関しては,表面反応の実験的評価が極めて難しく,その詳細な消炎メカニズムは依然として不明のままである.そこで,本研究では,プラズマを活用した独自のラジカル表面反応評価技術と燃焼診断技術を駆使することで,壁面の化学的効果の全容を解明することを目的としている. 当該年度は,まず,独自に開発したプラズマ分子線散乱装置において,純水素および純酸素ガスを超高真空中でプラズマ分解することで,燃焼反応において重要なHおよびOラジカルの超音速分子線を形成することに成功した.また,アルゴンをキャリアガスとする大気圧プラズマジェットに水蒸気および酸素を微量添加することで,OH, HおよびOラジカルを生成し自由空間に広く噴出できることを明らかにした.さらに,同軸噴流バーナーと加熱壁面から構成される壁面よどみ火炎テストベンチを製作し,よどみ火炎を安定に形成可能な燃焼条件を明らかにした.これにより,壁面に近接する火炎におけるガス組成の定量分析が可能となった.またこれに併行して,実験と比較可能な数値計算モデルも構築した.今後これらのラジカル線,ラジカルジェットおよび壁面よどみ火炎を用いることで,種々の温度・材質の壁面における,ラジカルの吸着,ラジカルの再結合,安定化学種の脱離に至る一連の表面反応プロセスの定量化とモデリングが可能になると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,燃焼場におけるラジカル表面反応プロセスを解明しモデリングすることを目的としている.そのため,当該年度は,ラジカル吸着反応を定量化するための,プラズマ分子線散乱実験の遂行および大気圧プラズマジェット実験装置の構築,また,ラジカル再結合反応を評価するための壁面よどみ火炎実験装置・数値解析モデルの構築,を目標とした.プラズマ分子線散乱実験では,燃焼反応において極めて重要なHおよびOラジカルの分子線を形成できることを示した.なお,形成したラジカル線は単色性に優れ,散乱測定に適していることも確認している.また,大気圧プラズマジェット実験装置を製作し,アルゴンをキャリアガスとするプラズマジェットに水蒸気および酸素を微量添加することで,OH, HおよびOラジカルを,壁面に対して噴出できることも明らかにした.このとき,各ラジカルの生成が最適化される印加電圧および添加量の調査も行った.さらに,同軸バーナーと加熱壁面からなる壁面よどみ火炎実験装置を構築するとともに,壁面に微細な流路を設けることで,火炎を乱すことなく壁面近傍の燃焼ガスをサンプリングする手法を新たに考案した.また,実験を模擬した数値計算を行い,実験と計算結果の比較検討が可能なことも確認した. 以上を踏まえると,現在までの進捗状況は,当初の目標に照らしておおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,昨年度までに構築した,プラズマ分子線散乱測定装置,大気圧プラズマジェット実験装置および壁面よどみ火炎実験装置を用いることで,吸着・再結合・脱離を含む一連のラジカル表面反応プロセスの定量化を目指す.具体的には,プラズマ分子線散乱計測により,各ラジカルの初期吸着係数を,燃焼装置や燃焼実験で多用されるステンレス,石英,アルミナ等の壁面に対し壁温を変えながら直接的に定量化する.また,プラズマジェットにより生成したラジカルジェットを異なる材質・温度の壁面に照射することで,大気圧下における各ラジカルの吸着反応をラジカル自発光計測やレーザー誘起蛍光法などの分光分析技術を用いて評価する.さらに,壁面ごく近くに形成される壁面よどみ火炎を活用することで,ラジカルと壁面が定常的に干渉する場を形成し,ラジカル吸着後のラジカル再結合反応・安定化学種の脱離反応の評価を行う.すなわち,異なる材質・温度の壁面近傍における燃焼ガス組成をガスクロマトグラフィーにより測定し,実験を模擬した数値解析との比較を通じて,ラジカル再結合反応速度の定量化に挑戦する.
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