研究課題/領域番号 |
19H02077
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩井 裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (00314229)
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研究分担者 |
岸本 将史 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (10757636)
吉田 英生 京都大学, 工学研究科, 教授 (50166964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 固体酸化物形燃料電池 / 多孔質電極 / ガス拡散 / 造孔材 |
研究実績の概要 |
R2年度はまず、前年度に引き続き拡散実験を実施した。試験対象の多孔質体サンプルは固体酸化物形燃料電池の燃料極として一般的なNi-YSZ多孔質体であり、空隙率および空隙径系分布の確率的制御は球形ポリマーの造孔材の種類と量を調整することで実現した。当初、前年度作製した実験装置のチャンバ内にガスセンサを設置し、例えば酸素濃度の時間変化を測定する予定であったが、装置に課題があり高精度での測定に困難が生じた。そこで多孔質内ガス拡散の別の重要パラメータである透過率の測定を先行することとした。窒素ガスを用いサンプルを挟んで全圧勾配を課した際の流量を測定し、造孔材の種類・量の影響についての基礎データを得た。試験に供した多孔質体の微構造を直交型FIB-SEM(収束イオンビームをもつ電子顕微鏡)を用いて観察し、大領域の構造データを取得した。空隙率、空隙径、比表面積密度、屈曲度ファクター等の微構造パラメータを定量化した。造孔材を使用したサンプルの空隙径分布は2峰性を示し、正規分布に従う微細空隙由来の分布と、対数正規分布に従う造孔材由来の大型空隙分布の重ね合わせで表現できることを示した。また実際にガス拡散が重要な役割を果たす高燃料利用率あるいは高水蒸気分圧条件下における燃料極性能について、実験により基礎データを取得した。R3年度に本格的に取り組む計画である数値解析の準備としてDSMC法による解析プログラムの開発に着手した。開発段階であるため解析領域を一辺20ミクロンの立方体領域に限定し、FIB-SEMにより得られた実際の試験サンプルの微構造を計算領域とした。透過率測定実験を模した解析を行ったところ、定性的な一致をみた。さらに近年注目されている機械学習を援用した新たな取り組みとして、畳み込みニューラルネットワークを用いて多孔質の屈曲度ファクターの推定することに着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たにガスセンサを設置することに伴うガスの漏洩が課題となり、当初予定していた相互拡散実験に困難が生じたものの、設計の見直しをおこない、令和3年度には改良された装置で実験を行うめどが立っている。また、その間に透過率測定の実験を前倒して行うことができたので、測定の順番は当初予定と変わったものの全体としては大きな遅れは生じていない。予定していた大領域の多孔質構造データの取得に成功し、従来の観察領域では得られなかった造孔材由来の大型空隙の分布データを取得したことなども含め、おおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に引き続き透過率測定の実験を行い数値解析の検証用となる基礎データを蓄積する。また拡散実験においてはガスセンサの設置方法を当初の設計から変更しチャンバの気密性を向上させて実施する。本研究では固体酸化物形燃料電池の燃料極として一般的なNi-YSZ多孔質体を主な試験サンプルとしてきたが、この場合は実験前の還元操作が必要である。還元時の試験サンプルの変形も気密性低下の一因と考えられる。そこで、ガス拡散実験においては還元の必要がないYSZ多孔質体やその他のセラミックス多孔質体も試験サンプルとして採用する。それらの試験サンプルは電極そのものではないものの、数値解析の妥当性検証には十分なデータが得られると期待される。いっぽう数値解析においては、前年度着手したDSMC法による数値解析モデルの開発を進める。透過率実験および拡散実験に相当する計算条件のもとで数値解析を実施し、上記の実験から得られる基礎データを用いて計算結果の妥当性を検証し、必要に応じて改良する。そのうえで、FIB-SEM観察を通じて得られる燃料極の大領域微構造あるいはその一部を計算領域として、燃料極内のガス拡散数値解析を行う。比較対象として従来のDusty-gasモデルやCylindrical Pore Interpolationモデルによる数値解析も実施する。また新たに取り組み始めた機械学習による多孔質微構造パラメータ推定の検討も進める。
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