研究課題/領域番号 |
19H02077
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩井 裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (00314229)
|
研究分担者 |
岸本 将史 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10757636)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 固体酸化物形燃料電池 / 多孔質電極 / ガス拡散 / 造孔材 |
研究実績の概要 |
前年度の結果を受け、R3年度は試験対象の多孔質サンプルにおけるガス輸送への全圧差の影響を調べる実験を実施した。測定対象の多孔質体は直径2㎝程度の円板状であり、燃料極として一般的なNi-YSZの多孔質である。その空隙率および空隙径分布の確率的制御は、球形ポリマーである造孔材の種類と量を調整することで実現した。ガス漏れを防ぐための特殊なセルホルダーを自作した。SOFCの燃料極で想定される水素-水蒸気の対向輸送では、電気化学反応による消費水素と生成水蒸気が等モルであるいっぽうで両ガス種の分子量の比が比較的大きいため、Kn拡散の影響が無視できないような微小空隙径領域において全圧勾配を発生させる可能性がある。その影響の有無と程度を常温実験で調べるため、水素-窒素とヘリウム-酸素の2通りのガス種の組み合わせを採用して実験を行った。すなわち多孔質の片側表面に水素(あるいはヘリウム)を、反対面に窒素(あるいは酸素)をそれぞれ供給して多孔質を介した対向輸送を生じさせ、その結果として両側から排出される混合ガスの組成を測定することで、各ガス種の輸送フラックスを得た。多孔質体の表裏の全圧差を変更して、その影響を調べた。全圧差がない場合には、分子量の小さいガス種の輸送フラックスが大きくなりGrahamの法則に従うこと、両ガス種が等モルで対向輸送されるためには、分子量の大きいガス種の供給圧力を相対的に高くする必要があることが明らかとなった。これは燃料極における電極厚さ方向の全圧勾配の存在を示唆するものである。この実験系に対応するガス輸送の1次元数値解析を実施し、実験結果と比較することでその精度を確認した後に、SOFCの作動条件を想定し高温での水素-水蒸気系について数値的に予測を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で当初から目的としていた、燃料極における対向ガス輸送について信頼性の高い実験データが得られたことは大きな前進と考えている。実験に用いている自作多孔質サンプルの微構造については、FIB-SEMによる観察と構造再構築を経て、その構造特徴量の定量化が前年度までに完了しているため、今後もデータの蓄積は継続して実施するものの、計画していた検討を行うための実験データの取得は完了したと言え、順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度であるR4年度は、最適構造提言へ向けた詳細現象の解明のため、主に数値解析に注力する。前年度実施した1次元解析よりも詳細に多孔質構造と輸送現象の相関を議論するために、FIB-SEMによって取得した多孔質構造をベースに、3次元数値解析を実施する。3次元解析を現実的な計算負荷で実施するために、これまでに開発した粗視化モデルを適用する。造孔材を使用した電極サンプルは空隙径分布が二峰性を示す結果をこれまでに得ているので、閾値を設けるなどの方法で、主に微小空隙で構成されるKn拡散の影響が顕著な領域と、分子拡散が支配的な比較的大きな空隙構造の領域に分け、それぞれの局所微構造の違いを数値解析に反映させる。常温実験で実施した水素-窒素系およびヘリウム-酸素系を対象に解析を行い、その結果を実験データと比較することで検証する。そのうえでSOFCで想定される高温での水素-水蒸気系の拡散解析を実施し、各ガス種の輸送フラックスの分布の非一様の有無あるいはその程度を明らかにする。また、大空隙の配置を人為的に制御する仮想構造を考え、配置がガス拡散に与える影響を系統的に調査することで、最適構造への指針を得る。良好な性能を示すと数値解析により予想された構造に可能な範囲で近い構造の燃料極をもつセルを作製し、発電性能を評価することでその有効性を検証する。
|