最終年度であるR4年度は、前年度までの検討で初めて実験的に示された燃料極厚さ方向の全圧勾配が電極内ガス輸送に与える影響を詳細に解明するため、実電極構造を対象とした数値解析を実施した。拡散実験に使用した燃料極サンプルの多孔質微構造データをFIB-SEMで取得し、その構造データを3次元拡散シミュレーションに供した。造孔材を使用した燃料極サンプルは空隙径分布が二峰性を示す結果をこれまでに得ている。すなわち、ニッケルの還元時の収縮に起因しクヌッセン拡散の影響が強く出ると予想される小空隙の多孔質体中に、造孔材に起因し分子拡散が支配的と予想される比較的大きな空隙が離散的に存在する。このような複雑形状での3次元解析を現実的な計算負荷で実施するために、これまでに当研究グループで開発してきたサブグリッドスケールモデルを採用し、計算格子サイズ以下の構造を局所でモデル化することとした。全圧勾配の影響を考慮するためガス輸送にはDusty Gasモデルを採用した。前年度の常温実験を模し、水素と窒素の対向拡散において全圧勾配を与えた。まず全圧勾配がない場合には、水素および窒素の局所モル流束の絶対値は、いずれの局所空隙径においてもほぼ一致した。窒素の輸送を促進する方向すなわちSOFCにおいて電極電解質界面から電極表面へ向かう方向に全圧勾配をかけた場合、大きな空隙径において窒素の輸送の促進と水素の輸送の抑制が見られた。さらに、条件によっては水素が逆流し電極表面方向へ押し戻される現象も捕らえられた。そのような時、小空隙では水素の輸送が促進されていた。数値解析の結果、造孔材による大空隙は水蒸気排出のために有効であることがわかった。条件によっては局所的な水素の逆流を引き起こす恐れが示されたが、それが電極性能に与える影響は今後明らかにすべき課題である。
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