研究課題/領域番号 |
19H02081
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鶴田 隆治 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (30172068)
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研究分担者 |
谷川 洋文 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (80197524)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱工学 / タンパク質 / マイクロ波乾燥 / ガラス化 / 常温乾燥 / 生物製剤 |
研究実績の概要 |
本研究では,タンパク質水溶液を常温下で泡状に乾燥し,泡形成による薄膜化・気液界面積の増大が革新的乾燥技術に繋がることを実証し,タンパク質系のバイオ医薬品創薬技術に貢献することを目的としている.具体的には,低圧下においてマイクロ波照射によって泡形成(発泡)と潜熱供給とを行うことにより,超高速の常温乾燥が可能となり,タンパク質の保存に不可欠なガラス化状態を実現できることを示し,その際の泡の形成条件と乾燥機構を明らかにするとともに,乾燥後のタンパク質評価を行って機能保存の有効性を示す. 初年度である令和元年度では,独自に開発したマイクロ波常温乾燥法(MVD)を用いて,乾燥圧力とマイクロ波照射強度をパラメーターとし,泡形成に至る条件を把握するとともに,泡形状と乾燥特性の関連を調べた.タンパク質としては卵白アルブミンとリゾチームを用い,マイクロ波発泡乾燥(MFD)を検討するにあたって必要となるタンパク質水溶液としての熱物性,すなわち粘性や表面張力,そしてガラス転移温度を調べている. その結果,表面張力が小さいほど起泡力が高く,特に卵白は泡の安定性も高いため,MFDに最適であることがわかった.一方で,リゾチームは起泡力・安定性とも低く乾燥の全期間に泡を維持することは困難であるが,水分の多い乾燥初期から中期の範囲では発泡も可能であり,発泡の生じない静的なMVDよりも乾燥速度が格段に速くなることを確認した. また,乾燥温度は乾燥室の圧力に対する飽和温度に保たれるため,最終乾燥物のガラス転移温度を超えないように乾燥温度を維持すれば,タンパク質としての品質を維持できることを確認した.特に卵白は,円二色性分散計(CD)によりアルブミンの分子構造がMFD後においても維持されていることが確認され,リゾチームについてはバクテリアを用いた残存活性評価においてもその活性が維持できることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した3項目;①マイクロ波常温発泡乾燥の乾燥特性と泡形状および泡形成条件の把握,②泡乾燥後のタンパク質構造解析と残存活性評価,③発泡条件と気泡形状,乾燥速度の一般化については,おおよそ予定通りに進行している. まず①では,マイクロ波の照射強度が乾燥速度に及ぼす影響を評価し,発泡に必要なマイクロ波出力のあること,および泡が形成されると乾燥速度が増大し,発泡しない静的なフィルム乾燥に比較して短時間に乾燥できることがわかった.また③とも関連するが,容器の下部から上部への泡供給が,容器内の泡の安定に重要であり,水分が多く粘性が小さい時にはマイクロ波強度による下部からの泡供給によって上部の溶液の重力による流下を防ぐこと,水分が減少して粘度が高くなると泡の上昇と流下がともに抑えられ,静的な乾燥状態に近づくことがわかった. ②では,卵白アルブミンの乾燥後の構造解析によりタンパク質構造が維持されていること,そしてリゾチームに対して細菌細胞壁ミクロコッカスルテウスの細胞壁分解活性能を紫外線可視分光光度計(UV)にて測定し,リゾチームが失活せずにミクロコッカスルテウスを分解すること,すなわち活性を維持できていることも検証している. ③については,泡の起泡力と安定性に代表される泡沫特性を実際に計測評価し,表面張力との関係に整理することができた.特に,表面張力が小さいほど起泡力は大きく,安定性も高くなる傾向にあることを確認している.その観点から,容器材料の濡性との関係については興味深いが,今後の課題となっている. 以上の内容から,おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画がおおよそ順調に進んでいるため,当初計画通りに,卵白やリゾチームよりも熱に敏感なタンパク質を対象に,マイクロ波発泡乾燥(MFD)の効果を調べていく.この際に,最終乾燥時のガラス転移温度が室温よりも低いタンパク質もあることから,MFDにおける乾燥温度が残存活性に影響を及ぼすのか,それとも乾燥温度がタンパク質の熱変性温度よりも低い場合(例えば卵白やリゾチーム)に最終乾燥物のタンパク質構造が維持されていたという事実に鑑み,粘度が増加して固化が一層進んだ状態では活性も構造とともに保存・維持されるのかという点が非常に重要かつ興味ある点である.この点を追求するために,例えばプロテアーゼや,実際に機能性食品として利用されている豚プラセンタなどを試料としてMFD実験を行い,抗酸化能などの残存活性を評価していく. また,いわゆるゴム領域である高粘度領域では,発泡も抑制され,乾燥速度も低下して温度制御が難しくなるため,前述のガラス転移温度との関連からも,この領域に凍結乾燥を実施して,乾燥速度と活性評価を行うことも検討したい.さらに,この領域の乾燥に受動的な乾燥法としてデシカント乾燥を考え,一昼夜の保管のみで,翌朝に出荷できるという効率的な作業工程も検討していきたい.
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