研究課題/領域番号 |
19H02086
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松田 佑 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (20402513)
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研究分担者 |
中垣 隆雄 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30454127)
江上 泰広 愛知工業大学, 工学部, 教授 (80292283)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単一分子計測 / 多孔質材料 / 物質輸送 |
研究実績の概要 |
マクロ・メソ・ミクロ孔といった空間階層性を有した多孔質物質は,触媒をはじめとして吸着材料,イオン交換,太陽光発電,ガス検知など非常に広範な機器において中心的な役割を果たしている.一般に触媒作用においては,触媒表面に目的分子が拡散し吸着することで反応が進むことから,固体触媒での目的分子の移動現象を正確にモデル化することが強く求められる.本研究では,単一分子計測法(SMT: Single Molecule Tracking)により,階層性を有した微細孔内での分子の吸着・拡散現象を適切にモデル化することを目標とし,個々の分子運動を直接計測・解析する.これにより将来的に,微細孔径分布をコントロールすることで,所望する性能を有した材料をボトムアップにより設計開発するための方法論の基盤構築を行うことを目的とする. 上述の目的を達成するために,本年度では,昨年度までに構築したSMT計測システムを用い,また検討した撮影条件や色素分子などの実験条件において多孔質体中での分子運動のSMT計測を実施した.なお実験を行いながら,SMT計測を行う上で適切な色素濃度の選定を行った.また本年度では高分子膜内での微細な網目構造内での分子挙動に関しても研究を実施した. またSMT計測データの解析手法として,昨年度までに構築したSMT計測データ解析アルゴリズムにおいて,ノイズを含むデータにおいてその性能評価を行った.加えて,拡散係数の推定のみならずに,分子に働いている外力の大きさを推定する関数を新たに導入した.開発したアルゴリズムに対し,予め全てのパラメータが既知の数値的に生成された軌跡データを用いて,予測の精度や適用範囲などの評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,多孔質体内でのSMT計測,SMT計測データの解析手法の開発を行った. まずSMT計測に関して記載する.実際の計測は,昨年度までに構築した計測システム,選定した色素分子などの実験条件で行った.本年度は実際に計測を行いながら最適な色素濃度の選定を行った.例えば,色素濃度が高すぎる場合,顕微鏡画面のほとんどが色素分子発光で埋められるために,個々の分子発光を検出することが出来なくなる.一方,色素濃度が低すぎる場合は,画面中に計測される色素分子が少なすぎるために,現象を統計的に評価する場合にはサンプル数が少なすぎるという問題が生じる.またこの場合は,レアな現象を計測できる可能性が低くなるという問題もある.そこで本年度では,実際に計測と解析を行いながら適切な色素濃度の選定を行った.また,本年度では高分子膜内での微細な網目構造内での分子挙動に関しても研究を実施した. 次にSMT計測データの解析手法について述べる.昨年度までに作成したSMT計測データ解析アルゴリズムの評価と改良を引き続き行った.推定するパラメータが既知である粒子軌跡を数値シミュレーションによって生成し,これらのデータに対して開発したアルゴリズムが正しく適用できるか評価を行い,それぞれの手法の利点,欠点ならびに拡散係数の予測精度,適用できる条件や検出限界に関して明らかとした.また,これらのような理想的なデータに留まらずにノイズなどを含む実際の計測データに近いデータにおいても評価を行った.加えて,拡散係数の推定のみならずに,分子に働いている外力の大きさを推定する関数を新たに導入した. 以上のように,計画通りに順調に研究が推進できている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,本年度の実験を引き続き実施し,統計解析の信頼性を十分に確保するためにデータ量を増やすことを主目的として研究を推進する.具体的な計測にあたっては,微粒子とプローブ分子の組合せによるプローブ分子の吸着量の変化,プローブ分子の拡散モード(自由拡散,表面拡散,拘束を受けた拡散など)やその拡散係数の変化を,その温度依存性も含めて調査する.またあわせて,これらの量の微細孔サイズ(マクロ・メソ・ミクロ孔)による拡散モードの相違を詳細に調査することで孔径の違いによる挙動変化を明らかとする.またSMT計測データの解析に関しては,初年度から継続して開発を実施しているデータ同化手法を有効に利用する.これにより従来手法である平均二乗変位平均二乗変位によるデータ解析よりも多くの情報を抽出することを目指す.具体的には,SMT計測で得られた軌跡データの解析に機械学習の手法を適用する.訓練データとして,ブラウン運動の数理モデルにより生成された軌跡データを用いることを提案する.数値シミュレーションを用いることによって,プローブ分子が運動する場の情報を数値的に明確に規定した,外乱の含まれない訓練データとして理想的な軌跡を数値的に多量に生成することができる.この手法により,SMT計測で得られたデータの詳細な解析が可能となると期待できる.次年度は,本年度までに検討した解析手法を実際のSMT実験計測データに本手法を適用する. また,SMTを用いたミクロ計測に対し,粒子全体を総括する巨視的に観測される吸着量・見かけの拡散係数の計測を行う.あわせて電子顕微鏡により,多孔質材料内の微細孔形状や各スケールの微細孔の連結状態などを詳細に計測することで,マクロスケールとSMT計測データの比較の際にこれらのデータを活用する.以上の成果を総括して,現象のモデル化を実施する.
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