研究課題/領域番号 |
19H02100
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
星野 隆行 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (00516049)
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研究分担者 |
川村 隆三 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (50534591)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微小管 / キネシン / 分子モーター / 電場形成 / バーチャル電極走査型電気化学顕微鏡 / VC-SECM |
研究実績の概要 |
電子線により励起されるバーチャル電極は呈示位置や時刻を自在にコントロールできることを利用し,分子の立体構造や機能を自在に制御するディスプレイを提案している.たんぱく質,核酸,脂質などの生体を構成する高分子は,静電相互作用によりその立体構造と機能が変化し,電界やイオン環境によって機能を変えることができる.そのため,バーチャル電極ディスプレイにより,時空間的な電場パタンを自在に制御し,ターゲットとなる分子の運動や構造をリアルタイムに制御することができると考えている.また,電場印加によって生じる界面動電現象や誘電泳動現象は,微小物質輸送や拡散・濃縮などバーチャルな流体デバイスを提供し,micro total analysis system (micro TAS)のような検出・情報処理インタフェースをその場で自在に構築するラピッドプロトタイピングに貢献するものと考えている. このような,システムを実現するために,本年度は分子輸送を可逆的に制御することをテーマに据えて,たんぱく質分子モーターのひとつであるキネシンによる微小管の滑走運動の一時停止の制御とバーチャル電極に対する応答性の評価を行った.その結果,微小管長さを含めた呈示バーチャル電極と一致した領域において一時停止挙動の発生確率が統計的に有意に高く(~20%),その範囲外では明確に低下し偶然的な停止確率と同程度であった.このことから,バーチャル電極の呈示は,分子モーターの運動性を可逆的に操作でき,その場で分子輸送を自在に操作できるデバイスをラピッドプロトタイピングできることを示唆する結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は分子輸送を可逆的に制御することをテーマに据えて,たんぱく質分子モーターのひとつであるキネシンによる微小管の滑走運動の一時停止の制御とバーチャル電極に対する応答性の評価を行った.キネシン分子による微小管滑走を一時的に停止させることを目的として,電子線で励起した電場パターン(バーチャル電極)を印加したときの印加条件と滑走挙動の関係を評価した.選択的に微小管滑走を一時停止するためには,印加電場に対する滑走応答の局所性と即応性の定量化が必要である.そこで,印加電場形状に対する滑走停止確率分布と過渡応答について評価する実験を行い,微小管長さを含めた呈示バーチャル電極と一致した領域において一時停止挙動の発生確率が統計的に有意に高く(~20%),その範囲外では明確に低下し偶然的な停止確率と同程度であった.このことから,バーチャル電極の呈示は,分子モーターの運動性を可逆的に操作でき,その場で分子輸送を自在に操作できるデバイスをラピッドプロトタイピングできることを示唆する結果である. 加えて,これまで取り組んでいた成果として,バーチャル電極ディスプレイのひとつの応用例として,バーチャル電極走査型電気化学顕微鏡(VC-SECM)による脂質膜などの接触界面凹凸の3次元イメージングに成功し,Sensos and Actuator B誌に論文発表した.この結果は.細胞が接着するときの脂質膜に生じる3次元形状を非破壊的にその場で可視化できる技術への発展が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
バーチャル電極ディスプレイの応用性を示し,また分子システムのラピッドプロトタイピングに必要な機能要素を実現するために,DNA分子の立体構造の展開やグラフェン・カーボンナノチューブの配向制御,これら分子構造からの機能素子をデータから構築するインタフェースの構築などに取り組む予定である.そのための研究項目として,分子機能や運動とデータ上の分子システム設計と双方向にリアルタイムに接続する「分子・マシン・インタフェース」への発展を目指す必要がある.高速度に分子応答を可視化・フィードバックし,バーチャル電極ディスプレイ上に適宜電場パタンを高速更新し,バーチャルに分子デバイスを実現する走査インタフェースの開発と,それによる機能分子の過渡応答特性を定量化して,分子デバイスを設計・呈示できるように研究を進める.
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