研究課題/領域番号 |
19H02104
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
倉林 大輔 東京工業大学, 工学院, 教授 (00334508)
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研究分担者 |
志垣 俊介 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50825289)
服部 佑哉 東京工業大学, 工学院, 助教 (30709803)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物規範システム / 適応的行動選択 / 匂い源探索 |
研究実績の概要 |
本研究は,生物が発揮する適応的な振る舞いを工学的に応用可能とすることを目的とし,生物と人工物との物性上の差異や経験・履歴に基づく行動変容,異種情報の統合過程および行動修飾等を解析し,化学物質源探索という機能性との連関を明らかにする.2019年度は行動中の生物に対し感覚入力と行動出力の双方に介入可能な実験系の構築,および行動解析の指標となる情報エントロピ推定手法の構築を行った.前者においては,モデル生物であるカイコガ雄成虫の匂い源刺激に対する触角および脳の応答電位の計測を可能とする実験系,風刺激を一定に与えつつ仮想空間における匂い源探索行動と実生物の化学刺激応答をリンクさせる実験系,モデル生物の行動軌跡と行動生物学的知見に基づく定型行動との比較による匂い源探索中の情報エントロピ推定手法の構築,を行った.これらの結果として,モデル生物の匂い源探索行動における刺激物質受容経験に依存して,化学感覚器である触角の化学刺激応答がほぼ変化しないのに対し,中枢神経系の応答は確率的に変容することを明らかにした.また,風向状況に依存したモデル生物の行動出力の変容が存在することを明らかにした.加えて,匂い源探索中での情報エントロピ増大と行動との対応関係の調査,生体化学センサ(触角)を人工化学センサに置き換えた際の応答に基づく匂い源探索性能変化推定,等を達成することができた.これらの成果は,査読付国際論文誌3編,査読付国際会議講演5件,ほかにおいて発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,昆虫のように神経系が小規模な生き物でも適応的な振る舞いが可能となる行動アルゴリズムについて,ロボットが苦手とする匂い源探索行動に的を絞って解析を行う.これによって,屋内等における危険物質捜索や狭隘領域での被災者探索を可能とするロボットシステム構築に資する成果を得るとともに,自然が持つ知的機能の解明に貢献する. 2019年度においては,行動中の生物に対し多様な介入可能な実験系の構築,および行動と対応した神経情報の取得を可能とする神経活動計測系の構築に成功し,状況依存的・履歴依存的な行動変容を神経応答レベルで確認することを可能とした.また,機械刺激(風)と化学刺激を自然状態とは異なる形で与えることで,異種感覚の入力に依存した行動修飾・変容についても解析をおこなった.また,これらと並行して,情報エントロピ推定のための数理モデル構築と,推定モデル検証・更新のためのシミュレーション環境を構築し,状況判断の定量指標に情報エントロピを採用したうえで,匂い源探索行動における情報獲得状況の推定と行動出力の関係を,生物学的知見に基づく定型行動との相関性から推定する手法を開発した.これらの成果はIEEE Transaction やIEEEの査読付国際会議などにて採択・発表され,生物規範型行動アルゴリズムの研究に新たな知見をもたらしたことが注目された.以上のことから,2019年度は研究計画に掲げた実験プラットフォーム構築を超える成果を得たと言え,想定以上の進捗を得ることができたと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度以降は,生物実験および関連する情報学的知見を用いながら,モデル生物が発揮する適応的行動選択についてそのアルゴリズム同定を進める計画である.2019年度に構築した実験系およびシミュレーションプラットフォームを活用・拡張し,より多様な状況・条件におけるデータを獲得したうえで,行動の指針となるべき情報学的指針と,これに基づく合目的・機能的行動発現の連関について解析を進める予定である.2020年度初頭においては,新型コロナウィルスの感染拡大により,実験実施を見合わせざるを得ない状況にある.このため,2019年度での実験で記録したモデル生物の行動状況映像や化学センサによる匂い刺激と空間分布の関係等について,ディープラーニングを用いた行動記録の高精細化や確率過程を用いた確率生成モデル表現の構築,逆強化学習を用いた刺激入力に対する価値関数の推定など,AI技術の適用による机上解析を補完的に進める.そのうえで,感染拡大収束後に生物行動実験および生物介入実験を実施し,データの拡充および行動生成モデル構築を行い,机上解析を進めた結果と統合することで,実験実施の遅れを取り戻す計画である.これらをもって,モデル生物の匂い源探索行動の解析,神経活動による行動解析,シミュレーションによるエントロピ推定等を行い,生物アルゴリズムの推定を行うとともに,匂い源探索ロボット構築に向けた知見を得る予定である.
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