研究課題/領域番号 |
19H02117
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
梅津 信二郎 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70373032)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 創薬 / スマートエレクトロニクスシート / 細胞組織 / iPS細胞 / 細胞外電位 / 収縮力 |
研究実績の概要 |
日本は超高齢化社会を迎えている。日本人口に対する高齢者の割合は令和元年において28.4%であり、年々高齢化率は増加している。今後ますます医療関係の負担が増大すると予想されている。テーラーメイド薬に代表されるように、新薬開発に関する研究は盛んである。効果的な薬剤を各患者にあわせて開発することで、副作用がなく(極めて少なく)、治せるという考えからである。一方で、薬の開発には膨大な時間とお金を必要とする。動物とヒトでは薬剤応答が違うなどの理由によって、臨床に至る前に不可となる薬剤が多く発生していたため、膨大な予算を必要とするのは仕方なしと考えられていた。一方で、ヒトiPS細胞を用いた創薬であれば、生体間の薬剤応答の違いが問題になることはないと考えられた。申請者らは、さらに開発精度をあげるにあたり、正確な測定を実現するスマートエレクトロニクスシートの開発、およびヒトiPS細胞由来の細胞組織を対象に、薬剤応答を評価する研究を本研究では推進している。 今年度は、ノイズが重畳しにくい収縮力測定システムを構築した上で、細胞外電位と収縮力を同時に測定可能な実験系を構築した。発生する収縮力はごく微小であるため、測定系の治具やサポートを極めて小型にしないと測定できないという問題が発生するが、この問題を解決している。その上で、様々な薬剤を対象に、細胞外電位と収縮力を同時に測定した。薬剤投与量に応じて、収縮力や細胞外電位に適切な変化が見られた。先行研究で得られている測定結果と同様の傾向を示した。 本測定システムにAIシステムを適用することで、細胞外電位と収縮力におけるわずかな変化の前兆と疾患との関係を見抜ける可能性があるので、AIシステムの開発も併せて行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞外電位は小さいため、測定時にノイズを除去する必要がある。ノイズを除去するシールドに関しては既に開発済みであったため、今年度は安定して測定できることを確認した。測定する収縮力も同様に小さいため、サポートや治具などを超小型・薄膜にする必要がある。このデザインに時間を要すると考えていたが、ノウハウをうまく活かすことによって、スムーズに開発できた。 上記の基礎デバイスを開発した上で、様々な薬剤を購入し、それぞれに対する薬剤応答試験を行うことができた。この成果は、3年目の研究として想定していたことであるが、様々な薬効特性に関するデータが集まったため、現在関連する国際ジャーナルに投稿している。 また、様々な薬効特性データだけでなく、細胞外電位と収縮力に関するデータを取得可能である。疾患の前兆や疾患や副作用の前兆に相当する信号を精密に発見することができれば、薬剤開発研究は一気に前進するとかんがえている。これを達成するにあたり、周期的な波形である細胞外電位や収縮力を対象に、特徴抽出が可能なAIシステムの構築に取り組んでいる。また、並行して、数値計算も進めている。AIと計算を融合することで、なぜその特徴が現れたのかに関しての理論的な意味付けをできる可能性がある。 以上の成果から、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られたデータによって、細胞外電位と収縮力に関しての薬効評価の試験を様々な薬剤に対して実施可能なことを把握している。さらに多くの薬剤・投薬条件に関してのデータを取ることも基礎研究としては重要であるが、開発した評価デバイスで得られたデータを解析する手法の確立が最も重要なものとなる。 具体的には、数値計算とAIシステムを応用することで、『測定していない箇所の細胞外電位を見積もること』、『応答の変化を見積もること』の2つが極めて重要であると考えている。前者を達成することによって、スパース的な測定データであるにも関わらず、測定していない箇所における変化を見積もることが可能になるからである。 後者の研究によって、通常の薬剤応答波形をPC上で作り、それと実際の測定結果を比較できる。このことによって、予測とどの部分が違うのかを正確に把握できる。また、違う部分に関しては、理論の観点から、どのようなメカニズムによるものかを考えることが可能になるはずである。 これらのことを達成するためには、数値計算とAIシステムを融合した系を構築することが不可欠であるので、最終年度はこの研究を推進する。
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