プラズマを用いたがんの抗腫瘍効果について、(i) 正常組織照射による遠達効果、(ii) 腫瘍切除後の切除痕照射による局所再発抑制効果、(iii) 腫瘍照射による免疫チェックポイント阻害剤の奏効率向上の3つの実験をマウスを用いて行った。(i)については本効果が現れる条件として、プラズマ照射時の腫瘍サイズが一定値以下であることが重要であることと、照射する正常組織の部位は特定箇所に限定されないことを示した。(i)の原理解明について、腫瘍内の各種免疫細胞の測定を計10回にわたり行ったが、プラズマ照射群とコントロール群で有意差を見出すことができず、原理解明は将来に持ち越しとなった。一方で、免疫不全マウスを用いた実験では本効果は観測されなかったことから、T細胞が関与する獲得免疫が本効果に関与している可能性を示した。(ii)については、腫瘍切除部を縫合する前にプラズマを10分間照射するだけで、切除部からの局所再発を半分程度に減少させられることを、再現性良く示すことができた。この効果は免疫不全マウスでは得られないことも確認し、獲得免疫が何らかの影響を与えている可能性を示唆した。(iii)については、まだ実験回数は十分ではないものの、がんの免疫治療に使われる免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体とプラズマ腫瘍照射を併用した実験を行い、プラズマ照射の併用で抗PD-1抗体の効き目が大きく向上する可能性を示すことに成功した。 プラズマの基礎研究も行った。酸素濃度を変えた時の特性変化、Oラジカル密度のレーザー計測、電界のレーザー計測、電子密度および電子エネルギー分布のレーザー計測、ストリーマ放電のシミュレーションを行った。また、活性種の選択的生成法に関して、O原子を高密度で選択的に照射できるCO2-VUV法の開発を行った。
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