研究課題/領域番号 |
19H02125
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
萩原 誠 東京工業大学, 工学院, 准教授 (20436710)
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研究分担者 |
佐野 憲一朗 東京工業大学, 工学院, 助教 (60589307)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パワーエレクトロニクス / 電気自動車 / 電動航空機 / 直流-直流変換器 |
研究実績の概要 |
本年度は、検討する非絶縁型直流-直流変換器の電流制御法の高性能化実現を試みた。具体的には、従来の基本波正弦波に基づく電流制御法に加えて、3次高調波電流を基本波電流に重畳する手法、台形波電流に基づく電流制御法に関して検討し、「PSCAD/EMTDC」を用いたコンピュータシミュレーション、および研究室で設計・製作した2 kWミニモデルにより制御法の有効性を確認した。その結果、進み補償制御を電流制御法に適用することで、正弦波状、3次高調波電流重畳時、台形波電流を用いた場合の全てにおいて所望の動作を実現できることを確認した。なお、電流制御法に関しては公益財団法人鉄道技術総合研究所と共同で知的財産権を申請した。 次に、変換器の電力密度と変換器効率の関係に関して、パレートフロントカーブを基に検討を行った。変換器に用いるインダクタの設計は鉄道への車載を想定して空芯インダクタの適用を想定した。また、インダクタに流れるリプル電流に関しても詳細な検討を行い、リプル電流を定量的に表す理論近似式の導出に世界で初めて成功し、理論解析の結果とミニモデルの実験検証の結果が良好に一致することを確認した。また、直流コンデンサ電圧に重畳するリプル電圧に関しても詳細な検討を行い、リプル電圧を定量的に表す理論近似式を導出し、ミニモデルにより理論近似式の妥当性を確認した。また、インダクタンス、静電容量、主変換器のキャリア周波数、補助変換器のキャリア周波数を決定する指針を明らかにした。また、補助変換器の段数が電力密度と変換器効率に与える影響に関して定量的に明らかにした。 得られた研究成果は、国内外の権威ある学会誌に投稿し、当該研究分野のトップジャーナルであるIEEE PELSに採択された。そのほか、国内英文学会誌に1件掲載が決定し、当該研究分野で最も権威がある国際会議であるIEEE ECCE2021にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、変換器の高性能化と電力密度・効率の定量的評価を実現目標として掲げていた。変換器の高性能化に関しては、電流制御法に着目を行い、昨年度までは電力系統で一般に適用されるd-q変換に基づく制御法を適用してきたが、ユニット数が1もしくは2の場合に適用ができない点とユニット間のパワーバランスが実現できない制御上の特異点があるという問題点が存在した。そこで、ユニットベースの電流制御法に変更することで上記問題点の解決を試みた。検討当初は単相電流制御時に発生する位相遅れが変換器の高性能化を妨げるという問題点に直面したが、位相進み補償を適用することで上記問題点の解決に成功した。さらに、従来の正弦波電流に加えて、三次高調波電流、および台形波状電流とすることで、同電力送電時において電流波高値の低減が実現できることを明らかにした。以上より、変換器の高性能化に関しては、当初の想定を上回る結果を実現することができた。 電力密度と効率を正確に評価するためには、インダクタ電流や直流コンデンサ電圧を正確に把握する必要があるが、従来まで異なる動作条件下におけるインダクタ電流、特にインダクタ電流に含まれるリプル成分、および直流コンデンサ電圧に含まれるリプル電圧を定量的に把握することは困難という問題点が存在した。本研究では、マルチレベル変換器で適用されている手法を適用することで、インダクタ電流に含まれるリプル電流を誤差10%以内で正確に模擬できることを確認した。また、コンデンサ電圧のリプル電圧に関しても異なる動作条件下において正確に模擬できることを明らかにした。また、従来主変換器のキャリア周波数、補助変換器のキャリア周波数、補助変換器のカスケード数に関して定量的に論じている論文は世界を含めて存在しなかったが、本研究では本提案変換器のパレートフロントカーブに基づく定量的評価に世界で初めて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究では、補助変換器に使用する各単位セルの変換器に同一のスイッチング周波数適用を想定していた。その結果、各変換器の損失が均一になるという利点が存在する一方で、スイッチング損失増大により変換器効率が低下するという問題点が存在した。昨年度までの検討の結果、変換器の最高効率は98%弱となることを明らかにしている。一方、実用化を想定した場合、最高効率は最低でも98.5%、場合によっては99%以上を要求される。変換器損失は主変換器損失と補助変換器に大別され、それぞれ導通損失とスイッチング損失に分類できる。導通損失は、パワーデバイス通電に起因する損失であり、流れる電流と適用するパワーデバイスにより一義的に決定される。一方、スイッチング損失は各セルの直流コンデンサ電圧とスイッチング周波数に比例する損失である。昨年度までの研究により補助変換器の発生損失は主変換器の発生損失の6倍以上であり、変換器効率向上には補助変換器の損失低減が必要不可欠である。特に補助変換器損失の中でも50%以上を占めるスイッチング損失の低減が実用化実現のために必要な技術課題となる。 上記問題を解決するため、本年度は二種類の手法を試みる。第一に、炭化ケイ素(SiC)に代表される低スイッチング損失のパワーデバイスを適用する手法を適用する。本手法に関しては実際に実験は行わず、データシートベースでSiCを適用することによる損失低減効果を明確化する。第二の手法として、各セルに同一のスイッチング周波数を適用するのではなく、個別にスイッチング周波数を適用することでスイッチング損失低減を実現する手法がある。上記を実現するための必要技術として、1) 別々のスイッチング周波数を適用した場合における各セルコンデンサ電圧の制御、2) 各セルコンデンサ電圧の値の最適化、3) 損失の最小化技術確立の3点が挙げられ、それぞれ検討する。
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