研究課題/領域番号 |
19H02127
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
佐藤 敏郎 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50283239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高周波電力用軟磁性材料 / 磁化機構 / 磁区構造 / 異方性 / インダクタ/トランス |
研究実績の概要 |
本研究では、Beyond MHz帯で高透磁率と低損失を両立し、熱暴走リスクの少ない候補材料として期待される扁平金属磁性粉末積層コンポジット磁心材料を対象に、Beyond MHz帯磁化機構を解明し、これらの知見をもとに材料の開発指針を整理し、材料の試作/評価によって本研究の有用性を実証する。初年度である2019年度の研究実績は以下のとおりである。 (1)磁性材料の高周波磁気特性は磁区構造やミクロ磁気構造に強く依存する。2019年度はKerr効果顕微鏡や電子線ホログラフィによる扁平粉末の磁区構造、ミクロ磁気構造の解明に対して学外機関との協力体制を構築した。また、励磁インダクタンスをキャンセルすることで20MHzまでの磁心材料のコアロス測定を可能とするとともに、大きな温度上昇を伴わずにロス評価可能な熱的方法についても基盤技術を確立した。さらに、扁平粉末単位で複素透磁率を評価する手法についても外部機関との協同の道を拓いた。 (2)非晶質リボンを出発素材とする等方性低磁歪Fe系ナノ結晶合金扁平粉末を作製し、扁平粉末世界最小保磁力119 A/m(1.5 Oe)を達成した。また、2019年度に購入したワイドギャップ電磁石を用いて磁界中熱処理装置を構築し、異方性扁平粉末の開発環境を整備した。Pd添加Fe系ナノ結晶合金に対して異方性誘導実験を行った結果、1 at.%以上のPd添加によって1000 A/m(12.6 Oe)を超える異方性磁界が誘導されることを見出し、異方性扁平粉末の実現に目途をつけた。 (3)扁平粉末コンポジット磁心の磁気デバイスへの適用可能性を検討する目的で、基板埋込み型インダクタ/トランスの特性シミュレーションを行い、コンポジット磁心の高い透磁率でインダクタンスの増大効果は高いものの損失が大きい課題が明らかにされ、扁平粉末の特性改良の必要性を改めて指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
扁平粉末の磁区構造やミクロ磁気構造の解明については、学外研究期間との協同を積極的に進めることで研究の進捗を確実なものとする。また、研究開始後、産総研から扁平粉末単体の複素透磁率を広帯域(10MHz~20 GHz)で評価可能なトランス結合型透磁率測定法が発表された。この手法を採用することで、扁平粉末単体の磁区構造やミクロ磁気構造と高周波透磁率との因果関係を定量的に考察することが可能になり、本研究の進展に大きく貢献するものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は以下のとおりである。 ①扁平磁性粉末単体の磁気物性評価、高周波磁化機構の解明;MHz帯磁気物性評価;2019年度に試作したFe系ナノ結晶合金扁平粉末を対象に、産総研の協力を得て扁平粉末単体の複素透磁率を評価できる手法を採用して試作扁平粉末単体の複素透磁率を1MHz~1GHzの範囲で評価するとともに、Kerr効果や電子線ホログラフィで観察した扁平粉末の磁気構造と対比して扁平粉末単体の高周波磁化機構を考察する。 ②等方性扁平粉末と異方性扁平粉末の比較;等方性Fe系ナノ結晶合金、ならびに、異方性Pd添加Fe系ナノ結晶合金に対して、上記①を実施し、磁壁移動と磁化回転モードが混在する等方性扁平粉末と磁化困難軸励磁磁化回転モード異方性扁平粉末の高周波磁気特性を定量的に比較する。 ③扁平粉末積層コンポジットシート材料の試作;扁平粉末と樹脂バインダを用いて扁平粉末積層コンポジットシート材料を試作し、シート面内の複素透磁率を評価するとともに、前年度に開発したコアロス評価法を用いてBeyond MHz帯コアロスを評価して扁平粉末の特性改良にフィードバックする。シート材料の高周波磁気特性と扁平粉末単体の磁気物性を対比させることで扁平粉末積層構造体における高周波磁化機構を考察する。
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