研究課題/領域番号 |
19H02148
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
辻 俊宏 東北大学, 工学研究科, 助教 (70374965)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 弾性表面波センサ / アンダーサンプリング / 微量水分 / ステンレス配管 / 内面処理 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本が世界をリードする革新的技術(青色発光ダイオード、有機EL、リチウムイオン電池など)に関する産業において重要なステンレス鋼配管の水分吸脱着特性の解明に着目し、高再現性の微量水分発生法と、弾性表面波(SAW)の超長距離伝搬を利用して微量水分を高感度かつ高速に計測可能なボールSAWセンサを組み合わせてインバースガスクロマトグラフィ(IGC)を構成し、配管材料システムの曲げ・溶接による初期吸脱着特性変化を定量化することにより、世界初の実用配管システム評価法の開発を行う研究である。 令和2年度に、納入時の問題を解決したバースト波アンダーサンプリング(BUS)回路を用いて、現在工業的に利用可能な配管材料の中で最も高品質に内面が電解研磨処理されたSUS316L管を試料に選定して、曲げ加工の影響を検討するために、初年度に構築した微量水分発生器により1000ppbvのプローブガスを供給して長さ500mmのストレート配管と90°曲げ配管を比較した。その結果、予想に反して曲げ加工の程度が大きいほど水分の吸脱着が早期に起こる現象が見出された。しかし、層流を乱すような流路の曲率と曲げにより内面に誘起された組織(ストレッチャーストレイン、曲げ組織)の影響を分離する必要があり、内面組織 の影響にポイントを絞って検討できる実験が必要であることが分かった。 そこで令和3年度には、組織が吸脱着に及ぼす影響を高感度に検出するために1000ppbvのプローブガス濃度を動的に希釈するための微量水分供給システムの改善と、濃度低下によるセンサ応答遅延の高精度な観察のための測定時間間隔の短縮法を開発した。一方で、微量水分領域でのIGCの実現には初期吸着状態の制御が重要なことが顕在化し、溶接組織の評価に先立って、令和4年度実施予定の配管加熱実験の一部を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、応答時間の短縮化について、従来のアンダーサンプリング波形のレコード長は300点だったが、BUSの通信規格(RS-232C)の制約で、測定間隔を3 s以下にするのが難しいこと分かった。そこで波形のレコード長を1桁小さくして30点の部分波形で実用的なセンサ応答が得られるか検討した。ランダムノイズ低減のためのアベレージング回数の影響を詳細に検討し、0.3 sまで測定間隔を短縮させることができた。これによりプローブガス1000 ppbの場合の急激な応答増加の際にも対応可能な測定ができるようになった。一方で、曲げ組織による吸脱着の影響は想定よりもわずかである可能性があり、プローブガスを最小で20 ppbvまで動的に制御できるようにオートプレッシャーレギュレータを組み込んだ。これらの準備の上に、曲げ組織の影響を行った。当初はチューブベンダで曲げ・戻しを実施して試験片を作製していたが、再現性を確保するため圧延ローラーで組織導入の定量性を向上させた。その結果、曲げ組織が未加工組織(購入状態)に対して水分の吸脱着に有意な影響を与えることが分かったが、未加工の場合に対して早期に吸脱着が起こる傾向が再現した。しかし、曲げ組織の程度と吸脱着の間の相関が明確でなかったため、室温実験における初期吸着状態(ドライダウンの到達点)に課題があると考え、プローブガス導入前の配管試料のベーキングを検討した。その結果、70℃で6 h加熱することにより、未加工組織において最も早期に吸脱着が起こることが確認された。この結果は、ドライダウンの程度に応じてステンレス配管の清浄表面が吸脱着の活性化エネルギーが変化するという既往の研究とも矛盾しない。このため、内面組織の影響の評価に際して、初期状態の管理の重要性が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果により、組織による微量水分吸脱着測定の準備が整った。最終年度は曲げ組織に加えて溶接組織についても試料を作製して評価を行い、本研究の目的であるステンレス配管システム用の微量水分をプローブカスに用いるIGCの有効性の実証を目指す。曲げ組織については、1 ppbvレベルのゼロガスを用いた場合のドライダウンでは、組織が導入されたことにより水分吸脱着が促進される可能性があると考えられる。これは表面に露出した転位のステップ構造に最密面が現れたことに起因する可能性がある。そこで、電子顕微鏡(反射電子像、EDXなど)による内面組織の観察を実施して、そのメカニズムの解明に挑む。溶接組織については、曲げ組織よりも試験片の作製における再現性の確保が難しくなる。溶接は自動溶接機を用いるがパラメータが複数ある中で、表面組成に大きな影響を与えるのはパージ条件であると考えられる。そこで限られた時間で検証を行うために、パージガスの有無による影響を検討する。また、曲げ組織および溶接組織の試料について、初期状態管理のためのベーキング条件を変えた実験を行う。これらの実験結果は、導入水分濃度およびベーキング温度の関係を整理することにより水分子の吸脱着の活性化エネルギーに関する知見を得ることを目標にする。これらの実験について研究成果を得ることにより、ボールSAW微量水分センサを用いたIGCが高純度ガス用ステンレス配管システム構築の基礎技術である曲げおよび溶接の影響を検出可能な技術であることを示す。
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