研究課題
当該年度には、ミリ波帯アレイレーダを用いた人体測定環境を整備した。整備したレーダは多入力多出力アレイを有し、12素子の仮想アレイを用いてビーム形状を適応的に変化させることができる。このアレイレーダを用いて人体からの複数の反射波を分離識別する信号処理法を開発した。従来、アレイレーダによる複数信号の分離にはビームフォーミング法やアダプティブアレイといった技術が広く用いられてきた。その多くは、源信号間の無相関性を仮定しており、この仮定が成り立たない場合には性能が低下するという課題があった。この課題を回避する空間平均法と呼ばれる手法も存在するものの、同手法はアレイ素子の一部のみで構成されるサブアレイをビーム形成に用いることになり、実効的なアレイ素子数が犠牲になるという短所がある。そこで、本研究では生体信号と皮膚表面の運動に関する事前知識を用いることにより、アレイ素子数を犠牲にすることなく、相関を有する信号に対しても正しく分離識別できる手法を開発した。開発手法の性能は数値シミュレーションおよび実験により定量的に評価し、その有効性を確認した。開発手法は、人体部位ごとの変位信号を分離するため、評価関数の最適化問題へ定式化している。まず、生体信号の皮膚変位量についての事前知識により、分離後の信号の位相回転量が小さくなるという点を最適化問題における評価関数に組み込んでいる。次に、複数の人体部位の変位の関係をシステム理論的に定式化し、脈波の伝搬に伴う既知の伝達関数と矛盾しない波形が得られるよう、これも評価関数に組み込んでいる。加えて、解の連続性などの拘束条件を課した評価関数を構成し、最適化問題を解くことにより高精度な信号分離が可能となることを実験的に確認した。
2: おおむね順調に進展している
研究計画調書の2019年度の研究計画に記載の通り、人体の非接触計測を実現するレーダ実験環境の整備を行った。続いて、生体信号のモデルを用いた信号分離手法を開発した。さらに、開発手法の性能を被験者の参加するレーダ実験により定量的に確認した。以上の計画3点がいずれも実施されたことにより、本研究課題は順調に進展しているといえる。
今後、研究計画調書の2020年度の研究計画に記載の通り、電波イメージングによる人体部位の位置特定および生体計測を実現する技術を開発する予定である。新型コロナウイルス感染症の影響により、研究協力先の米国ハワイ大学への渡航については、実施可否を慎重に判断する必要がある。渡航しない場合でも、インターネット経由のビデオ会議により、研究協力は予定通り行う。さらに、被験者が参加する実験についても、ウイルス感染の可能性を考慮し、安全に実施できる形態を検討しつつ進める。もし新たな実験の実施が難しい場合においても、2019年度に測定した実験データを流用することで、2020年度の研究推進はほぼ予定通り進めることができると考えている。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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