研究課題/領域番号 |
19H02155
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阪本 卓也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (30432412)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レーダ / アレイ / 信号処理 / 生体信号 |
研究実績の概要 |
2020年度には、研究目的である複数人体・複数部位の非接触計測および個人識別を実現するため、アレイレーダ信号処理技術を応用した高分解能化手法の開発を進めた。実施計画に記載のとおり、前年度までに開発したアレイレーダシステムを用いて複数人体の非接触計測を実施し、生体信号イメージングを実現した。 まず、生体信号に特有の位相変化に着目した新たなブラインド信号分離アルゴリズムを開発した。この手法では、生体信号の数理モデルと分離信号の特徴の差異を目的関数とした最適化問題に帰着させ、人体の各部位からの反射波を分離する。この手法により、従来は達成できなかった空間分解能を達成し、人体部位の特定を可能とする高分解能の非接触生体計測を実現した。さらに、呼吸の特徴を取り入れた高次元空間におけるクラスタリング手法を開発した。この手法では空間座標に加えて過去の呼吸間隔の履歴を新たな次元として導入した高次元空間での呼吸空間クラスタリングを行う。呼吸空間クラスタリングは、信号帯域幅やアレイ開口長で決まる分解能を上回る超高分解能を達成し、多人数の同時計測における人数推定では空間情報のみを用いる従来法と比べて精度を80%以上改善させることに成功した。さらに、呼吸変位の特徴を利用した個人識別技術では約95%の精度が達成されることを確認した。 これら2種類の高分解能手法の性能を評価するため、室内の任意の位置に着座した最大7人の被験者が参加する実験を行い、レーダによる生体信号の非接触計測データを取得した。ベルト型呼吸計の計測値を参照データとした精度評価も行った。提案法による非接触の呼吸間隔計測において、7人の被験者の平均誤差は172ミリ秒となり、多人数の生体信号を同時かつ高精度に計測できることが実験により実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
民間企業との連携により、本研究課題で開発した非接触生体計測技術を応用した製品を開発した。同製品は2021年2月より一般向けに非接触見守りセンサとして販売されている。さらに、同製品のさらなる性能改善および社会応用を目指したコンソーシアムを設立し、研究代表者が副代表に就任した。このように、当初の研究計画では想定していなかったが、学術的な成果のみならず社会実装でも進捗があったため、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
多人数および多部位の生体情報を同時計測するためには、より多くの素子を有するアレイレーダを用いることが有利である。これまでの実験データを精査した結果、アレイ素子数やチャネル数で決まる自由度が生体計測精度や分解能に大きな影響を与えることが明らかになってきた。そのため、当初の研究計画通りに現状のレーダ実験システムによる研究推進を進めると同時に、より多くの素子を有するアレイレーダの設計製作も行い、多自由度を有するシステムを導入した高性能化を試みる。アレイの多素子化を行う経費は、本研究課題とは別の予算により対応する予定であり、本研究課題の予算計画への影響はない。
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