研究課題/領域番号 |
19H02159
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
濱上 知樹 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (30334204)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 知能システム / 深層学習 / 転移学習 / 説明可能性 / 受容可能性 |
研究実績の概要 |
本研究は,受容可能な知能システムの実現に必要なシステム知の循環機構を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために,「システム知の循環機構」を構成する以下の分析・説明・制御技術を完成させる。①複雑な知能システムの学習結果から複数ドメイン知識を抽出する「システム知の分析法」 ②抽出されたドメイン知識の関連から,その振る舞いを表現する「システム知の説明法」 ③得られたシステム知を組み合わせて新たな知能システムを操作する「システム知の制御法」である。そして,これらシステム知の循環機構を持つ実システムを社会・医療分野を対象に実装・評価することをめざす。 このうち,初年度では(1)システム知の分析法(アンサンブル蒸留)として,複数ドメインにまたがる知識が混在している場合でも有効に蒸留を行う方法として,学習対象のドメインに対して異なる正則化を施し,ドメインごとの教師モデルを抽出する方法を提案する方法の提案に至った。この成果を生殖医療支援システムに応用している。また,(2)システム知の説明法と制御法(Deep-Shallowハイブリッド学習)としてDeepな学習機構で得られた教師モデルを, Shallowな学習機構を持つ生徒モデルで蒸留することにより「機能の学習結果」から「システム知の説明」への転移を実現する手法についてクレジットスコアリングを対象にしたベイジアンネットワークの転移学習法を明らかにしている。さらに,異常検知アプリケーションの説明可能性について試行的な応用をはかり,2年目以降の具体的目標を明確にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進捗は大きく2つに分かれる。「システム知の分析方法」に関しては,複数の専門家の知識空間を共有知識と特有知識で表現し,これを多目的最適化の手段を援用して統合する新たな理論を完成させた。本理論は,仮想的なシミュレーション実験によって,従来手法に比べての優位性が証明されている。本理論は,少数のエキスパートの知識から合理的な知識を獲得する独創的な手段として様々な展開が期待できるだけでなく,専門の知識の説明や分析にも活用できる極めて実用的な技術になった。さらに応用面では,受容可能性が求められる生殖医療支援において,胚培養士の経験知を本手法によって統合,グレード推定支援に応用するシステムの構築に至った。本成果は,知能システム分野の医療応用研究として,生殖医療分野からも大きく注目され,新聞報道や専門情報サイトでの紹介など,大きな波及効果が得られた。「システム知の説明法」については,アテンションを利用した説明可能な応用システム(形状設計問題,医用画像における異常検知)の実現を通して,説明から受容に至る表現方法と,操作性について評価を行った。特に医用画像においては,wavelet帯域分割された弱学習器をShallowな学習器でアンサンブル学習させることにより,病変異常との関係性を理解しやすくなることを明らかにした。またクレジットスコアリングモデルは,ベイジアンネットワークの転移によって,あるドメインでの説明を他のドメインにあてはめた上で,その予測精度をつかって説明の受容性を評価できる可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討で,ドメイン間の転移学習による帰納的な説明可能性と,受容性の実現を示すことができた。2年目以降はこれらの技術をさらに精緻化するための改良を進めるとともに,「システム知の制御法」につなげるための課題について検討を行う。具体的には,ドメインごとに異なる教師モデルを統合し,対話的に解に近づけるDeep-Shallowハイブリッド学習に着手する。この手法を初年度に引き続き生殖医療支援と文章検索のタスクに応用し,有効性を評価することをめざす。
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