最終年度である本年度は、熱制御計測に必要不可欠なナノ厚さの原子層材料に対する異方性熱伝導率計測手法である周波数領域サーモリフレクタンス法の開発に引き続き注力した。成果の一つとして、トランスデューサー層と呼ばれる表面の熱吸収層と反射層であるAuをパターニングすることにより、Au内の熱伝導を抑制することができ、これにより従来の全面にAuを成膜する測定方法では測定感度の低かった低熱伝導率材料の熱計測が可能になった。 また金属型原子層材料であるMXeneの成膜方法についても改良を実施した。具体的には昨年度まではスプレーコーティングによる成膜方法を実施していたが、MXeneの成膜時の均一性に課題があった。そこで、減圧濾過と転写法により大面積かつ短時間で薄膜厚さを簡単に制御する成膜方法を開発した。得られた薄膜の導電率はスプレーコート法と比較して1桁程度低いことがわかった。 さらに、熱を物理パラメータに利用した熱リザバーコンピューティングに関する基礎原理を開拓した。熱伝導率の温度依存性に非線形性があることを利用して、まずは1次元の熱伝導モデルにおいて記憶タスクと非線形タスクを実行し、1次元の熱伝導体が熱リザバーコンピューティングに利用可能である可能性を見出した。本成果は熱を利用したエッジコンピューティング技術の一つであり、エネルギーの高効率利用につながる基本技術の一つになりうると考えることができるため、本研究課題終了以降も引き続き検討を行っていく。
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