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2021 年度 実績報告書

TPCOが自己組織化した低次元キャビティの導入による電流励起有機レーザーの実現

研究課題

研究課題/領域番号 19H02172
研究機関奈良先端科学技術大学院大学

研究代表者

柳 久雄  奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00220179)

研究分担者 山下 兼一  京都工芸繊維大学, 電気電子工学系, 教授 (00346115)
阪東 一毅  静岡大学, 理学部, 准教授 (50344867)
佐々木 史雄  国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (90222009)
山雄 健史  京都工芸繊維大学, 材料化学系, 教授 (10397606)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード有機レーザー / TPCO / マイクロキャビティ / ポラリトンレーザー
研究実績の概要

電流励起による有機レーザーの実現には、(1)レーザー発振励起閾値を低減する共振器の導入、(2)注入キャリアによる励起子消滅、(3)非発光性の三重項励起子問題などの課題が残されている。 本研究では、それらを解決するため、ロバストな活性媒質であるThiophen/Phenylene Co-Oligomer (TPCO)を用い、その低次元自己組織化によりナノ~マイクロスケールの高Q値キャビティ構造を導入した垂直共振器型表面発光素子(VCSEL)と発光トランジスタ(LET)を構築することを目的としている。
まず、TPCOがレーザー媒質として機能することを光励起下における発光増幅特性から評価した。TPCOの持つ自己組織化結晶成長の特徴を活かして、一低次元ナノワイヤや二次元薄板状結晶を作製し、それらの自己導波路効果に基づく光励起下でのレーザー発振を観測した結果、TPCOを用いた低次元単結晶が外部共振器を導入することなく良質な有機レーザー媒質として機能することを明らかにした。今年度は、TPCO単結晶の共振器特性を向上させるため、溶液成長法を改良し難溶性の長鎖TPCOにおいても良好なレーザー発振特性を有する単結晶作製法を検討した。
TPCO誘導体膜を積層したpn接合型のVCSELを作製し、共振器内に閉じ込められた電界発光が電流注入により生成した励起子と結合した励起子ポラリトンを形成することがわかっており、電流注入により生成した三重項励起子が非局在化して、集団的にスピン0の一重項励起子として発光に関与していることが示唆されている。そこで今年度は、キャスト法により成長させたTPCO単結晶を用いてEL素子を作製し、電流注入特性とEL発光スペクトルを測定した。その結果、結晶端面で電界発光が得られたことから、電流励起下においてもTPCO単結晶が自己導波路共振器として機能することがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

TPCOの結晶作製法として、改良した液相成長法を用いて最もπ共役鎖長の長いTPCOであるBP4Tの単結晶作製を行った。得られた結晶はおよそ1mmのサイズまで成長した菱形の薄板状で、蛍光観察下でそのエッジのみが発光していることから、スラブ型の自己導波路共振器として機能することが確認された。また、X線回折測定より結晶表面は(001)面であり、この面に対してBP4Tの分子軸および遷移双極子モーメントがほぼ直立していることがわかった。得られた結晶をナノ秒パルスレーザーで励起した結果、0-1および0-2振電遷移帯で同時に狭線化増幅したマルチモードのレーザー発振が観測された。また、レーザー発振時の発光像から菱形結晶の対角線上に沿って伝搬した光が共振していることがわかり、高い光閉じ込め効果が確認された。さらに、フェムト秒パルスレーザーを励起源に用いて発光の時間分解測定を行った結果、0-2帯においてレーザー発振閾値付近での発光が励起パルスの時間原点に対して221 ps遅延していることがわかった。このような遅延発光は通常の誘導放出によるレーザー発振では説明できず、超蛍光や励起子ポラリトンが関与した協同的発光現象であることが示唆された。
TPCO単結晶を用いたEL素子作製では、BP2TやBP3Tの飽和溶液を陰極として電子注入輸送層をコートした透明電極ガラス上にキャストして単結晶を成長させた。結晶は電極基板上を一様に覆っていないため陰極の露出部をフッ素系高分子膜でコートしたのち、その上から陽極を蒸着した。いずれの素子においても光励起下でレーザー発振することが確認され、電流注入発光特性を測定した結果、安定した電流―電圧特性が得られ、TPCO単結晶部分から電界発光が観測された。特に結晶端面からのELが観測されたことから、TPCO単結晶が電流励起化においても自己導波路として機能することが認められた。

今後の研究の推進方策

今回作製したBP4T単結晶を用いて観測された遅延発光増幅現象は、これまでにBP3T結晶において観測されている現象と同様に、分子振動をまとった励起子が結合したvibrationally dressed exciton polariton (VDEP)であると結論づけている。観測された遅延発光現象は励起子準位から下肢ポラリトンへの冷却過程における分子振動のコヒーレンス形成に要する時間として解釈される。VDEPの形成は分子の協同的振動が励起子の非局在化をもたらすことを実証する重要な知見である。今回、もっとも難溶性で安定なBP4T単結晶を用いて同様のVDEPを示唆する結果が得られたことから、今後、電流注入型素子を作製しその電界発光特性に及ぼすVDEPの効果を検証し、これまでの誘導放出や励起子ポラリトンに基づくレーザー作用とは異なる室温で動作する新しい有機レーザーデバイスへの展開が期待される。
電界発光素子において、TPCOの分子配向が電流注入に影響を及ぼすが、TPCO結晶中では分子軸が結晶面に対してほぼ直立しているため、積層素子において電極からキャリアの注入や結晶内への輸送の効率が低いと考えられる。そこで、結晶面に対して寝た配向をとって成長するTPCOとして、分子両末端にシアノ基を有するBP2T-CNやBP3T-CNを用いて電界発光素子を作製する。これらのシアノ基置換TPCOは比較的溶解度が高いことから、キャスト法において共振器として良好な形状やサイズの薄板状結晶が成長する条件を調べる。時間分解発光測定を行いシアノ基置換TPCO単結晶が同様の遅延時間を伴ったレーザー発振を示すことを確認し、VDEPの形成ダイナミクスを詳細に調べる。さらに、作製した素子を用いて電流注入発光特性を測定し、VDEPが注入キャリアによる励起子消滅や三重項励起子問題に及ぼす影響を明らかにする。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2022 2021

すべて 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件)

  • [学会発表] ヘキシル基置換(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの単結晶の作製とその光学特性2022

    • 著者名/発表者名
      菅原拓実,水野 斎,甚上知美,佐々木史雄,柳 久雄
    • 学会等名
      第69回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] 溶液成長法によるチオフェン/フェニレンコオリゴマー単結晶の作製とそのレーザ特性2022

    • 著者名/発表者名
      松尾 匠,佐々木史雄,柳 久雄
    • 学会等名
      SATテクノロジー・ショーケース2022
  • [学会発表] 溶液キャスト法による有機半導体結晶微小共振器からのEL発光2022

    • 著者名/発表者名
      佐々木 史雄,松尾 匠,高田 徳幸,椋橋 奈穂,水野 斎,柳 久雄
    • 学会等名
      第69回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] シアノ基置換(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー単結晶マイクロキャビティの作製とその光学特性2022

    • 著者名/発表者名
      門司悠佑,水野 斎,甚上知美,山下兼一,佐々木史雄,柳 久雄
    • 学会等名
      第69回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] シアノ基置換(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの結晶多形の光学特性2022

    • 著者名/発表者名
      甚上 知美,水野 斎,佐々木史雄,柳 久雄
    • 学会等名
      第69回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] Optically pumped lasing from solution-grown single crystals of 5,5’’’-bis(4-biphenylyl)-2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’-quaterthiophene2021

    • 著者名/発表者名
      Takumi Matsuo, Fumio Sasaki and Hisao Yanagi
    • 学会等名
      2021 International Conference on Solid State Device and Materialss (SSDM 2021)
    • 国際学会
  • [学会発表] ペロブスカイト電荷移動層と(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー発光層からなる有機EL素子の開発2021

    • 著者名/発表者名
      佐々木史雄,松尾 匠,高田徳幸,椋橋奈穂,水野斎,柳 久雄
    • 学会等名
      第82回応用物理学会秋季学術講演会
  • [学会発表] ブチル基置換(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの結晶多形形成による光学特性の変化2021

    • 著者名/発表者名
      水野 斎,甚上 知美,阪東 一毅,佐々木史雄,柳 久雄
    • 学会等名
      第82回応用物理学会秋季学術講演会
  • [学会発表] BP4T単結晶からの遅延時間を伴った光励起レーザ発振2021

    • 著者名/発表者名
      松尾 匠,佐々木史雄,柳 久雄
    • 学会等名
      第82回応用物理学会秋季学術講演会
  • [学会発表] 溶液キャスト法による微小共振器形成とその有機EL素子開発2021

    • 著者名/発表者名
      佐々木 史雄,松尾 匠,高田 徳幸,椋橋 奈穂,水野 斎,柳 久雄
    • 学会等名
      レーザー学会第560回研究会「有機コヒーレントフォトニクス」

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公開日: 2022-12-28  

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