研究課題/領域番号 |
19H02175
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
澤野 憲太郎 東京都市大学, 理工学部, 教授 (90409376)
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研究分担者 |
徐 学俊 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 主任研究員 (80593334)
浜屋 宏平 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (90401281)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲルマニウムLED / スピンLED / 光暗号通信 |
研究実績の概要 |
円偏光発生可能な発光素子がSi基板上に実現すれば、一つのSiチップ上で情報演算処理と、その情報を光配線によって伝達、円偏光発生によるチップ外部への円偏光光信号送信を同時に行うことが可能となり、光通信、Si-OEIC分野へ革新を起こす技術となる。本研究では、材料としてゲルマニウム(Ge)に注目し、「高スピン偏極強磁性体電極を有する円偏光発生Ge LED」を実現することを目的としている。 今年度は、高効率Ge(111) EL発光デバイス(LED)の実現に向けて、まずプロセス、構造最適化の目的で、Si(100)基板上のGe構造(Ge-on-Si(100))において、メサ構造の縦型ダイオードを作製した。ドーピング濃度、膜厚の最適化、ELデバイスメサ構造、電極構造の最適化によって、室温での発光効率を大幅に向上させることに成功した。さらに、成長後の熱処理によって、さらに発光強度を3倍近く向上できることを示した。これが歪み率と結晶性向上によるものであることを明らかにした。 また、エピタキシャル成長と貼り合わせ手法を組み合わせたGe-on-Insulator(GOI)基板形成については、貼り合わせに問題となっていたGe-on-Siエピタキシャル膜表面のボイド欠陥が、ウェハーレベルで完全にゼロにすることは容易ではないことが分かり始め、ボイドによる貼り合わせ後の剥離を防ぐために、新たな方法として、Ge-on-Siをパターニングした後の貼り合わせを試みた。その結果、より広面積なGOIの形成が可能となった。 また、量子閉じ込めや歪みの効果を導入して発光特性を向上させる目的で、歪みSiGe混晶層のGe-on-Si上への形成手法を引き続き検討した。SiGe膜中に発生するクラックがパターニングによって完全に抑制されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スピンLED実現のためには、Ge(111)を用いた高効率ELデバイスの実現が必須であるが、その準備として、結晶成長条件等のこれまでの蓄積の多いGe(100)においてLEDの作製と評価を進めた。その結果、室温において非常に強い電流注入EL発光を得ることに成功した。この結晶成長パラメータ(ドーピング濃度、膜厚、成長温度)等をベースとして、Ge-on-Si(111)のpin構造の作製、さらに縦型ダイオード構造を作製して評価した結果、Ge-on-Si(100)よりやや強度が劣るものの、室温における強いEL発光を得ることに世界で初めて成功した。GeスピンLED実現への道が大きく開けたと言える。 さらに将来的にSiGe/Geヘテロ構造を形成し、量子閉じ込め、歪みによるスピン制御を進めるために、Ge-on-Si上の歪みSiGe膜形成について検討を進めた。引っ張り歪みが大きいことから、特に(111)面では臨界膜厚が小さくなってしまう問題を昨年度までに示しているが、今回パターニング法を初めて提案、導入したところ、メサパターン上に形成されたSiGe膜には欠陥の導入が大幅に抑制されることが明らかになった。さらに、欠陥導入メカニズムが、面内で点状に分散して存在することを見出し、メサ構造を数百μmにまで大きくしても欠陥抑制に効果があることを示した。歪みSiGe層の臨界膜厚として、パターン無しの場合に比較し、パターニングを施すことによって3倍を超えることを示した。これらの結果は、本研究で第一目標としているGe-on-Si LEDの次のステップとして、量子ヘテロ構造を活性層に有するLED構造につながる成果であり、当初計画よりも前倒しで得られた成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度となるが、当初の研究テーマ申請時の研究計画の通り順調に進んでいるので、引き続き計画通り進め、その中で、さらに次の量子ヘテロ構造SiGe(111)LEDにつながる成果を出していきたい。 ① 引き続きGe(111)LED構造の最適化、発光効率向上化を進める。すでに室温発光が得られており、さらにin-situドーピング濃度、膜厚の条件を見直し、最適なpin構造を形成する。並行して、LED構造上に強磁性体電極の結晶成長を行い、良質なコンタクト形成とスピン注入の実現を目指す。その後、端面取り出し構造により、偏光発生・評価を進める。 ② GeスピンLEDを大面積Ge-on-Insulator (GOI)基板上に形成することが究極的な目標となる。上記のように、パターニングによる欠陥抑制の効果が示されたため、GOI基板作製手法として、貼り合わせ前にパターニングを施す手法を提案し、その結果、貼り合わせ強度の向上、選択エッチングプロセスの精度を高めることに成功し、大面積GOIウェハーの実現につながる結果を得た。今年度は、このパターニングGOI上にLED作製を試みる。その際、アモルファスSi膜形成による表面不活性化を行い、高効率GOI(111)LEDを完成させる。 ③ 量子SiGe/Geヘテロ構造のLED活性層への導入のために、各Ge組成の歪みSiGe混晶層をGe-on-Si上に作製し、その発光特性を調べる。パターニング手法を駆使して、より大きな歪みを有するヘテロ構造の作製を試み、歪み量と発光特性の相関を明らかにし、スピンLEDからの円偏光発光において高い偏極率を目指す。
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