研究課題/領域番号 |
19H02177
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
高野 義彦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, MANA主任研究者 (10354341)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導 / 超高圧 / ダイヤモンド |
研究実績の概要 |
2015年、超高圧下においてH3Sが超伝導転移温度Tc=203Kを示すことが報告され、最高Tcの記録が塗り替えられた。これは、水素が金属化すれば室温高温超伝導になると1968年にAshcroftが唱えた説の信憑性を裏付けるものと思われる。 高圧力発生装置ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた電気抵抗測定は、電極挿入が大変困難であるため、特別な技術を持った研究者でなければ不可能な領域であった。そこで、本年度の研究では、電気伝導性の高いホウ素ドープダイヤモンド電極をアンビル上に予め微細加工し、超高圧下電気抵抗測定を容易にする新しいDACの開発を行った。中でもより高い圧力を発生するために、先の尖ったキュレットダイヤモンドへ電極の微細加工を試みた。アンビル斜面へ3次元微細加工を工夫し製作に成功した。このアンビルを用いて、硫化水素の加圧実験を行った結果、約190GPaの超高圧発生に成功し、最近の水素化物超伝導体の圧力領域まで加圧できることを検証した。加えて幸運なことに、初回の超高圧実験でありならが、新しい超伝導体の発見に成功した。理論計算の報告との比較から、本超伝導はHS2と推定され、これまでに報告されていない新規超伝導体であることが明らかになった。本発見は早速 (SuST33,2020)に論文発表した。このように、このたび製作したDACの有効性を確かめることができた。さらに、アンビルの傾き調整をしなくても平行が得られるように、セルとアンビルの作製工程を改善した。これにより球座という平行あわせ治具を無くし、より安定に超高圧を発生可能とした。加えて、本機構により開口角が大きくなり、DACサンプルのX線構造解析が可能となった。X線解析は次年度に向け実験準備中である。これら研究活動を通して、原著論文7,招待講演5などの成果を上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイヤモンドアンビルへの立体電極微細加工の技術開発により、キュレットダイヤモンドに電極が加工できるようになり、200GPa近い圧力下において電気抵抗測定が容易に行えるようになった。この技術的進歩は水素化物超伝導体の探索において大変重要な進歩であり、当初の想定より早い進行である。 このアンビルを用いて、硫化水素の加圧実験を行った結果、約190GPaの超高圧発生に成功し、幸運なことに新しい超伝導体の発見に成功した。理論計算の報告との比較検討より、本超伝導体はHS2と推定され、これまでに報告されていない新しい超伝導体であることが明らかになった。本発見は早速 (SuST33,2020)に論文発表した。このように、このたび製作したDACの有効性を確かめることができた。 さらに、ダイヤモンドアンビルを用いて高圧下試料合成を行うために、ヒーター付アンビルの開発も開始した。こちらはまだ原理検証の段階であるが、700度程度まで加熱に成功し、こちらも当初の予定より早い進行である。 しかし、水素の封入実験において、アンビルが割れる問題が発生し、こちらは想定外の問題である。アンビルの質や表面状態の検討から、原因はアンビルトップの微小な研磨痕である可能性が明らかになってきた。そこで、複数のアンビル製造会社の研磨状態をAFMで比較検討した結果、S社のみ極めてよい研磨状態であることが分かった。そこで研磨状態とアンビル強度について比較検討することにした。加えて、DACの球座を無くす工夫により開口角が大きくなり、DACサンプルのX線構造解析が可能となった。X線解析は次年度に向け実験準備中である。全体として概ね順調に進展していると思う。
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今後の研究の推進方策 |
水素化物超伝導体の探索に求められている200GPa級の圧力を発生させるためのアンビル条件や加熱のためのヒーター微細加工技術は、研究実績の概要に記したように、基本原理が検証されたので、翌年度はこれをより高性能化する。 進捗状況に記した水素によりアンビルが割れる問題は、アンビルトップの研磨痕が原因と思われるため、研磨状態の改善したアンビルを購入し水素脆性の有無を実験検証する。もし、研磨状態で改善しない場合、水素の侵入を防ぐ酸化チタンなどのコーティングをアンビル表面に施し問題解決を図る。 その後、高圧水素を用いてDACへの水素封入実験を行い、予めサンプル室に挿入しておく金属と反応させる。この際、ホウ素ドープダイヤモンド・ヒーター回路によるジュール熱により加熱する。加熱が足りない場合はレーザー加熱を併用することを検討する。 得られた物質の結晶構造を判別するために、DAC内の試料のX線その場観察を行うシステムを開発する。これまでに、ダイヤモンドアンビルのバックアップの構造や球座を無くすなどの改良を進めた結果、試料への開口角が20度以上得られることが確認された。来年度は実際にX線を照射しサンプルの回折をCCDにより捉え、Raman分光と比較検討しながら、結晶構造の同定を可能にしたいと考えている。 実験対象試料の選定は、論文で理論予想されている物質群(YHx,LaHx)などに加えて、現在、理論家と進めているデーターベースと第一原理理論計算によるスクリーニングにより決定する予定である。これにより本研究では、上記超高圧技術を駆使して、理論家と協力しながら新規高温超伝導体を発見することを目的として推進する予定である。
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