研究課題/領域番号 |
19H02178
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮田 典幸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究主幹 (40358130)
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研究分担者 |
野平 博司 東京都市大学, 理工学部, 教授 (30241110)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 不揮発性メモリ / 界面ダイポール / 抵抗変化メモリ / X線励起光電子分光法 |
研究実績の概要 |
界面ダイポール変調 (IDM: interface dipole modulation) 機構を組み込んだMIM (metal-insulator-metal) 型抵抗変化素子について、当初の計画通り (1)デバイス試作・評価と (2)スイッチング機構解明を進めた。 (1)デバイス試作・評価では、まずは、(2) スイッチング機構解明で行う HAXPES (hard X-ray photoelectron spectroscopy) 測定用のIDM MIM試料を作製したが、HAXPES 測定よりBE (back electrode)として用いていたTaN 電極膜がウエットプロセスによって薄膜化していることが判明したため、プロセス条件を見直した。また、熱処理条件の最適化のため、PDA (post deposition annealing) 後のXPS (x-ray photoelectron spectroscopy) 測定を行い、350℃ PDAでTiO2変調層のサブオキサイドが十分に低減できることを見出した。以上のプロセスを用いて電気特性評価用のTE(top electrode)/上部HfO2/中間SiO2/下部HfO2/BE-TiN のMIM構造を作製し、電流-電圧 (I-V)測定より、抵抗変化と整流作用が得られることを確認した。 (2) スイッチング機構解明では、(1)で作製したIDM MIM試料のHAXPES測定を行い、印加電圧に依存した光電子スペクトルを取得した。上述のBE膜の薄膜化はあったものの、印加電圧に応じた妥当なスペクトル変化を観察することに成功した。詳しいスペクトル解析より、電圧印加後にTE/BE間に僅かなポテンシャル差が残ることが見出され、MIM構造中でIDM動作が起こっていることが推測された。また、(1)電気特性評価用MIM構造のパルス応答測定を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に沿って下記(1)および(2)の実験を進めており、プロセス見直しなどの想定外の作業が加わったものの、概ね、計画していた実験を実施できたと考えている。 (1)デバイス試作・評価では、実際にIDM (interface dipole modulation) 機構と非対称なトンネル障壁を有するMIM (metal insulator metal) 構造を作製し、同一のデバイスから抵抗変化と整流作用が得られている。この結果から、本研究提案のコンセプトが正しいことを示せたと考えている。また、試料作製において、特に熱処理が動作特性に影響することが見出され、最適な熱処理条件を決めたことも大きな進展であった。同条件で作製した試料が、極めて安定した繰り返し電流-電圧ヒステリシスを示しており、本提案のデバイスが高いメモリ性能を有することが期待される結果と言える。 (2) スイッチング機構解明で行った HAXPES (hard X-ray photoelectron spectroscopy) 測定では、予定通りに印加電圧に依存した光電子スペクトルの変化が取得できており、さらに、それらの解析からMIM構造中でIDM動作が起こっていることが示唆できた点は予想以上の進展と考えている。 以上より、(1)と(2)の両方の課題において、十分な進捗があるため、概ね順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、前年度の実験結果を引き継いで、下記(1)および(2)の研究を進めることとする。 課題(1)「デバイス試作・評価」では、昨年度に安定動作に成功しているIr-TE (top electrode) とTiN-BE (bottom electrode) の組み合わせ以外の電極材料、さらにHfO2やSiO2の膜厚や変調層の挿入位置の影響なども調べ、最適なIDM MIM (interface-dipole-modulation metal insulator metal) 構造を検討することとする。また、WKB近似によるトンネル電流の計算を行い、測定結果との比較から、IDM MIMデバイスのコンセプトおよび動作特性の妥当性を検証する。さらに、(2)で行うパルス特性の結果も踏まえ、IDM MIMデバイスのニューロモルフィック応用への可能性を検討する。ここでは、従来のMOS (metal oxide semiconductor) 型 IDMデバイスも含めて検討することとする。 課題(2)「スイッチング機構解明」では、昨年度のHAXPES (hard X-ray photoelectron spectroscopy) 測定結果の解析をさらに進めるとともに、BE電極やデバイス構造を改良した試料の再測定を試みる。また、(1)で作製するIDM MIMデバイスのパルス測定を行い、電界やパルス幅に対する基本的な応答特性を取得する。以上のHAXPESおよびパルス応答の結果より、MIM構造中のIDM動作機構を考察することとする。
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