研究課題/領域番号 |
19H02180
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
今岡 伸嘉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 招聘研究員 (40776217)
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研究分担者 |
昆 竜矢 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (00780199)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軟磁性材料 / ナノフェライト / 湿式合成 / 水素還元 / 窒化 / 炭化 |
研究実績の概要 |
次世代自動車に代表される高回転モータや高周波用インダクタに求められる高い飽和磁束密度(Bs)と低い保磁力(Hc)を併せ持つ新しいFe-X系軟磁性材料を開発した(国際公開特許WO/2017/164376、特許6521416号等)。湿式合成によりX(Mn,Ti等)成分を含むナノフェライトを調整し、これを900~1100℃で水素ガスにより還元処理して数十~数百μmの凝結したFe-X粉体を得る。電磁鋼板など従来の金属系軟磁性材料は、絶縁・打抜・整列・溶接・焼鈍する煩雑な工程を経て製造されるが、Fe-X材料は粉体状であるため、表面絶縁して焼結する簡便な粉末冶金技術を用いて成形できる。現在2.0T以上のBsと10-100A/mのHcを有する新規Fe-X粉体を、本助成研究開始前の40倍のスケールで合成することに成功し、トロイダル状に成形して高周波特性の検討を進めている。その過程で、保磁力の粒径依存性や磁気曲線の形状から、新規Fe-X材料が従来に無い新しい磁化反転機構を有することが予想された。本研究はそのメカニズムを解明し、更なる磁気特性の高性能化や安定化、又新規用途開拓や磁気曲線の自由な設計に繋げていこうというものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元~2年度における本研究の目的は、 ①高周波特性で電磁鋼板を凌ぐ新規Fe-X系軟磁性粉体を10gスケールで製造する。 ②Fe-X系の磁化反転機構を解明する。 ことである。令和元年度に入って、0.2g少量バッチで開発したFe-X粉体の磁気特性を、8gのバッチスケールで達成することに成功したので、計32g のFe-X粉体をメーカ3社に出荷し、7月度より実用性評価を進めてきた。そのうちの1社である大手自動車部品メーカはFe-X材料の磁化の高さを生かした、ある自動車部品への応用に可能性を見出しており、現在試作品向けの粉体を作製しているところである。ただし、弊所では粉体保磁力を保ったまま成形する技術が確立されておらず、Fe-X粉体を使用した成型体が、電磁鋼板をしのぐ高周波特性を有するかは実証されていない(鉄損値は、目標の10倍以上)。令和2年度、引き続き検討を進めたい。 ②についてであるが、既存材料と異なるFe-X系磁性材料の磁化反転のメカニズムを解明することにより、その知見を更なる磁気特性向上やその安定化に活かし、又その特徴を生かした新しい用途開拓、従来と異なったシステム設計への意欲向上に繋げていく。Fe-Mn粉体断面のローレンツTEM像には数十nmの大きさの短冊型構造が確認されたが、令和元年、さらに電子線回折でも、その構造を捉えており、独自な磁化反転機構が生じている可能性が高い。令和2年度はさらに、高分解能TEMやポーラログラフィなどで、仮説の正当性をさらに盤石なものにしていく。 令和2~3年度では、この新規な微構造を有するFe-X系材料を前駆体として、③気相反応による、窒化・炭化によるFe-X系軟磁性材料の開発を試みる。本年度はアンモニア-水素ガスで窒化する装置を立ち上げ、気相よりFe-X相に窒素若しくは炭素若しくはその両方を導入し、さらなる低保磁力を達成する研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
課題①について。湿式合成工程では令和元年度、ハステロイc273製の反応槽を酸素導入量制御ができるよう改造し、プールベの理論を基にした手法を用いて溶存酸素、pHの時間変化を精密に制御し、38g/バッチの高純度のMn-ナノフェライト原料合成に成功した。還元工程では、ハステロイX製の炉心管を改造して急冷機構の導入、還元前の造粒、還元前後の分級、還元後の解砕処理の新プロセスを付加して、上記ナノフェライト粉体を用いた、Hc~60A/mのFe-Mn粉体8g/バッチを安定製造することに成功した。ほぼ当初の目標を達成したが、企業との協業のフェーズ進展に合わせ、更なる量の増加が要求されている。湿式合成工程では、高濃度反応の実現、新しい工程開発による準連続運転によって、100g/日の高純度のMn-ナノフェライト原料合成に挑戦する。還元工程では、更なる水蒸気分圧や水素ガス線速の検討、炉のナンバーアップ等により、30g/日の達成を目指す。 課題②について。昨年度から2年を掛けてFe-X材料の磁化反転機構解明に迫るが、令和2年度は、九州大との共同研究で、詳細な微構造観察を予定している。又、令和元年度、1.9K~室温の範囲で、Mn0.2at%添加Fe-X粉体の飽和磁化がFeを凌ぐことを確認した。室温でFeを超える磁化を有することは、試料提供先の企業でも確認されている。なぜFe-Xが高い磁化を有するのか解明すべき事項が増えたが、令和元年度から名工大とのメスバウアー分光法による共同研究により、この機構解明にも取組み始めた。 課題③について。上期中にまずアンモニア-水素ガスによって窒化可能な設備を組み上げ、軽元素添加の検討を始める。具体的には、NH3ガスを使用して一旦Fe16N2を作製し、熱分解を起こしてFeより磁気異方性が低いFe4NとFeのナノコンポジットを構成し、保磁力をさらに低減させる等を考えている。
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