研究課題/領域番号 |
19H02200
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
北田 貴弘 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任教授 (90283738)
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研究分担者 |
南 康夫 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任准教授 (60578368)
盧 翔孟 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任助教 (80708800) [辞退]
原口 雅宣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (20198906)
岡本 敏弘 徳島大学, ポストLEDフォトニクス研究所, 准教授 (60274263)
安井 武史 徳島大学, ポストLEDフォトニクス研究所, 教授 (70314408)
森田 健 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30448344)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子デバイス・機器 / テラヘルツ/赤外材料・素子 / 半導体非線形光学デバイス |
研究実績の概要 |
3つのブラッグ反射多層膜(DBR膜)と2つの共振器層で構成する半導体結合共振器を使ったテラヘルツLEDの開発を進めている。電流注入による赤外二波長レーザ発振とその差周波発生を同一素子内で行うことを原理とする。差周波発生を最大限に高める分極反転型の結合共振器薄膜の作製は、独自に開発した高指数面基板上の副格子交換エピタキシー成長技術を利用する。放熱特性に優れた素子構造とすることで出力を高め、スペクトル計測を実現する。さらに、集積構造をデザインして試作し、その放射特性を明らかにする。本年度は、まず放熱特性に優れる素子の実現を目的として下部共振器層に電流注入を行う素子の試作とその発光特性評価を中心に行った。 (001)と(113)Bエピウエハの直接接合による結合共振器薄膜を使って、下部共振器層に電流注入を行う面発光素子を試作した。本構造を形成するには、二段階のメサエッチングが必要で、1段階目で剥き出しとなった表面に上部p電極をリフトオフプロセスで形成し、裏面にn電極を設けた。電流注入による発光特性を評価したところ、2つの問題点が明らかとなった。一つは、p電極の接触抵抗の素子間でのばらつきである。これは、1段階目のDBR膜のエッチングの均一性に起因していることがわかった。もう一つの問題は、1段目のメサとp電極の隙間で生じる光学損失である。メサはウエットエッチングで形成するが、その際、横方向エッチングによるサイズ縮小を厳密に考慮しておく必要があることがわかった。 自作のフーリエ分光装置について、ヒータ線加熱による輻射熱スペクトルを計測することで装置の感度特性を明らかにするとともに、素子の差周波発生が計測するインターフェログラムにどのように反映されるかをシミュレートした。副格子交換エピタキシーで成長する薄膜構造の詳細を検討し、集積化素子をシミュレートするモデルについても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的としているテラヘルツLEDを実現する上で、高指数面基板上の副格子交換エピタキシー成長技術を利用することにより一度エピタキシャル成長で分極反転型の結合共振器薄膜を作製することと、下部共振器層に電流注入する素子構造とすることで放熱特性を著しく改善し、差周波発生に十分な基本波の高出力化を図ることが特徴である。上記二つの作製技術が必須であると考えているが、そのうちの一つである下部共振器層に電流注入する素子構造のプロセス工程で、予想していなかった2つの問題点が生じた。具体的には、p電極の接触抵抗の素子間でのばらつきと、1段目のメサとp電極の隙間で生じる光学損失である。これらの原因の同定とその解決方法を見出すに少し時間がかかっており、本構造での電流注入による赤外二波長レーザ発振には至らなかった。このため、高指数面基板上での副格子交換エピタキシーによる薄膜形成も実施できておらず、研究の進捗状況としてはやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、下部共振器にInGaAs歪量子井戸を活性層として挿入したGaAs/AlGaAs結合共振器を使って電流注入型の素子を試作する。昨年度試作した素子で問題となったp電極の接触抵抗のばらつきは、スターラを利用してエッチングすることで改善し、1段目のメサとp電極の隙間による光学損失の問題は、メサ形成の際の横方向エッチング量を考慮した新規のマスクパターンで解決する。試作した素子は、放熱が十分に行われるよう銅製の試料ホルダにマウントし、電流電圧特性、電流注入によるレーザ発振特性を評価する。二波長発振が得られれば、非線形結晶を用いた和周波信号測定及びストリークカメラによる時間分解測定により二波長発振の同時性について検証する。素子特性の評価結果を踏まえて、現有の分子線エピタキシー(MBE)装置を使って分極反転型の結合共振器を(113)B n型GaAs基板上に成長する。中央のDBR膜に極薄のGe層を挿入することで、副格子交換による分極反転構造を実現する。成長した結合共振器薄膜を使って素子を試作する。 外部検出器として冷却型Ge光伝導検出素子を備えたフーリエ赤外分光装置を用いて、電流注入により発生する単色のテラヘルツ波を分光計測する。単一素子から生じるテラヘルツ波の強度、スペクトル形状等の注入電流依存性を評価する。また、室温動作の検出器を使って素子のテラヘルツ放射特性評価も行う。 引き続き高出力化に適した集積素子の設計を行う。二次元フォトニック結晶技術に基づいて、高強度のテラヘルツ波が得られる素子のアレイ構造の設計を進める。有限差分時間領域(FDTD)法による電磁界シミュレーションを設計にフィードバックすることで、構造の最適化を進める。
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