現在,内視鏡によって体内を直接的に観察し,患者への負担の少ない検査・手術が広く行われている.高解像度の赤外イメージ伝送が可能になると血管内の画像や人体内のサーモグラフィーが得られるようになり,新たな診断・治療方法が実現できる.既存のイメージファイバでは赤外透過性の低い材料を使用していることと周期的な構造を有するために波長の長い赤外光を高解像度で伝送することはできない.本研究課題は赤外光透過性の高い新規なガラス材料と断面方向にランダムな構造を有するファイバによるアンダーソン局在を用いて,高い解像度の赤外イメージ伝送を実現することを目指した. 高い解像度の赤外イメージ伝送を実現する構造を広く検討する過程で,ビーム伝搬法を用いた導波光の伝搬解析および有限要素法を用いたモード解析からランダム断面構造ファイバ内の導波機構の解析を行った.ランダム構造中の局所的な屈折率の分布の偏りによって部分的に解像度が劣化することがある.これを解決するため高屈折率材料と低屈折材料を交互に配置する新規な構造を見出し,そのような構造を持つファイバを作製する方法について検討した. 高屈折率材にAsSe2ガラスと低屈折率材にAs2S5ガラスを用いたランダム断面構造ファイバを作製し,赤外光のイメージ伝送の可能性について基礎的な検討を行った.基本単位構造の直径が約3マイクロメートルで,空孔のない緻密なランダム断面構造ファイバを作製することに成功した.作製したランダム断面構造ファイバを用いて波長が3マイクロメートルの赤外光を用いてイメージ光伝送の基礎的な実験を行った.スポット光を入射した結果,直径約11マイクロメートルの狭い領域に閉じ込めるられることが確認でき,ランダム断面構造ファイバで中赤外イメージ伝送が可能であることを実証することができた.
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